山元彩香《Untitled / Nous n'irons plus au bois》2013年
© Ayaka Yamamoto
清里フォトアートミュージアムにて、開館30周年記念展 後期「写真と肖像 顔から風景へ」が開催される。
清里フォトアートミュージアム(KMoPA)は、今年で30周年を迎える。開館記念展は、若い写真家たちを刺激し、激励することを目的とした「25人の20代の写真」展からはじまった。30周年記念展ではそのオマージュの意味もこめて、1万点以上に及ぶKMoPAコレクションのなかから「25人のU35(35歳以下)の写真」を新たな視点で厳選し、写真の原点、そしてKMoPAの原点を見直す展覧会を、二期に分けて開催する。前期の「冒険」に続く本展では「肖像」がテーマとなる。
肖像には長い歴史がある。まだ写真が発明されてなかった頃の肖像画は、生きた証、理想像、権力の誇示など、時代背景や目的に応じて描かれてきた。写真が発明されると、安価で短時間でできる肖像写真の需要は一挙に高まった。当初、写真には写実性が求められたが、絵画と同じく、記憶をとどめ、内面世界を表現し、尊厳を訴え、社会的存在として写しだすなど、様々な試みが行われてきた。
本展では、肖像をテーマに、自己と他者、社会、風景の重層的な関係を見ていく。写真を通じて世界はどのように現れてくるのであろうか。
▼ゲストキュレーター
楠本亜紀(Landschaft /インディペンデント・キュレーター、写真批評家)
■見どころKMoPAを象徴するU35(35歳以下)の作家たち
清里フォトアートミュージアム(KMoPA)の30周年記念展ということで、写真の原点、そして写真の未来につながるような展示にしたいと考えた。そうして出てきたテーマが「冒険」(前期)と「肖像」。さらにそこにKMoPAを象徴するU35(35歳以下)というくくりを設けることによって、写真家たちにとっても原点といえるような作品の数々を展示する。出品作家は1868年生まれの巨匠から、1992年生まれの新進作家まで、120年以上の隔たりがあるが、すべて35歳以下で制作した写真だ。
▼エドワード・S.カーティスの古典技法によるプリント
KMoPAは、収集・展示の三つの基本理念のひとつに「永遠のプラチナ・プリント」を掲げている。今回はエドワード・S.カーティス(1868〜1952)による、20世紀初頭に撮影され、古典技法を用いた作品を3点展示する。カーティスは、アメリカ先住民の尊厳ある姿を後世に伝えようと、細部の陰影も美しく、ほぼ劣化することのないプラチナ・プリントやオロトーンの技法を用いた写真を生み出し、先住民に対して思い描く「理想像」を永遠にとどめようとした。一方で、現実では、豊かな自然とともに生きてきた先住民たちの文化は失われつつあった。写真は、「イメージ」でも「現実」でもあり、なかでも肖像は、私たちに倫理の問題も含めたさまざまな問いを投げかける。そうした写真の複雑さにも、展示をとおして向き合う。
▼他者に触れる
写真は、いまだかつて見たことのないものをとらえる力をもつ。異国の地で、その人に染み付いている固有名詞を取り払い、見たことも無い「何者か」に触れたいと願い、言葉も通じない被写体とともに時間を過ごし、制作したという山元彩香(1983〜)の作品は、写真を見るものにとってもとらえ難さを残したまま、「他者」の存在を感じさせる。
▼セルフ・ポートレイト
写真では、誰が誰を撮るのかということはとても重要な意味をもつ。時に、写真家と被写体の間には避け難い不均衡が生じがちだ。セルフ・ポートレイトはそれを避けることができるとともに、自分がどうやって他者から見られているかを考えることができる手段でもある。KMoPAコレクションのなかからセルフ・ポートレイトの作品を選んでいると、気づけばすべてが女性の作家だった。彼女たちがセルフ・ポートレイトで問いかけるものは何なのか。ファブリケイテッド・フォトグラフィの分野でシンディ・シャーマンに先がける作家として再評価が進むジョー・アン・キャリス(1940〜)の初期作品も展示される。
▼顔から風景へ
「写真と肖像」と聞くと、顔ばかりが並ぶ展覧会を想像してしまうであろう。本展では「顔から風景へ」という副題にもあるように、肖像を「顔をとらえたもの」だけに限定しない。肖像=ポートレイトの語源には「引き出す」という意味が含まれているが、外観を写しだすだけではなく、その人の存在に関わる何かを引き出すこと、それが肖像だと考える。そして、人は人を取り巻く環境、風景とは切っても切れない関係にある。本展覧会で取り上げる作家は25人。ポーランドの辺境で、土地に根差した暮らしをする人々と協働しながら撮影したアタム・パンチュク(1978〜)、オランダ独特の平坦な風景をバックに赤毛の人物をとらえたハンネ・ファン・デル・ワウデ(1982〜)、マイナス40度にも達する極寒の冬にも、石油の富によって人工的な南国都市を造ろうとするカザフスタンの都市をとらえた桑島 生(1984〜)、鳥取砂丘で撮り続けた植田正治(1913〜2000)、東日本大震災後に被災地である三陸、福島に通いつづけて撮影した田代一倫(1980-)の写真など。ポートレイト、ドキュメンタリー、スナップショット、風景の垣根を超えて、肖像のテーマから立ち現れるものは何だろうか。最後を飾るのは、KMoPAが誇るロバート・フランク(1924〜2019)の一大コレクションの中から選んだ作品だ。フランクによる不朽の名作「アメリカ人」にはどのような「肖像」が写しだされているのか、展示を通じて見つめ直す機会となるだろう。
- ■展覧会情報
開館30周年記念展 後期「写真と肖像 顔から風景へ」
会期:2025年7月5日(土)〜10月13日(月・祝)
時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休廊日:火曜日- 7月・8月 無休
- ただし、9月23日(火・祝)開館
会場:清里フォトアートミュージアム
住所:山梨県北杜市高根町清里 3545-1222
入館料:一般800円(600円)、大学生以下無料- *( )内は 20 名様以上の団体料金 *家族割引1,200円(2~6名様まで)
【関連リンク】
https://www.kmopa.com/---2014wordpress/wp-content/uploads/kmopa30th-second_compressed.pdf
会期 | 2025年7月5日(土)〜10月13日(月・祝) |
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会場名 | 清里フォトアートミュージアム |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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