山下 豊「銭湯 相生湯」©Yutaka Yamashita
大阪のgallery 176で山下 豊「銭湯 相生湯」が開催される。
亡き父の故郷に帰るたびに気になっていた建物がある。銭湯相生湯とその上にある喫茶モカ。
土佐清水市に移住して、知り合いが増えるなかで、銭湯相生湯のことを聞いてみると、「浴槽が浴室の真ん中にあって、女湯の浴槽の形が変わっていた」「男の脱衣場には、船の名前が書いてある石鹸箱が、たくさん棚に並んでいた」老若男女問わず銭湯でのたくさんの思い出話を聞くことができた。
すでに閉湯していた相生湯をどうしても見たくなった私は、当時、営業していた喫茶モカを訪れ、銭湯の中を見せてもらうように依頼した。中に入らせてもらうと、ほとんどの物が3年前に閉湯した状態で残されていて、思い出話以外に溢れる魅力的な空気感が広がっていた。女湯は、何処か華やかで優しい雰囲気が漂い、反対に男湯は、武骨な漁師がいる漁船の中のような空間が広がっていた。私は迷うことなく撮影の依頼とその前に掃除をすることを申し込んだ。
掃除は1週間の予定で、目に見えるところだけを綺麗にするつもりでいた。しかし、3年間積もった埃は、部屋の隅々に見過ごせないほど積もっていて、掃除が終わるまで約1ヶ月の時間を要した。
一人で掃除している姿を、長年番台で、銭湯を切り盛りしていたお母さんが、毎日、缶コーヒーを差し入れしてくれる度に驚きの目で私を見ていた。お母さんは、気を遣って掃除の手伝いを申し出てくれたが、私は、ありがたく思いつつも、お母さんのお手伝いの申し出をお断りした。
その理由は、私が、この銭湯を一度も利用したことがなく、どこに何があるのか全く知らなかったので、掃除をすることで、相生湯の90年近い歴史を私自身に刻み込もうと考えていたからだ。
しかし、脱衣場や浴室に飾れられたドライフラワーを水洗いした後、私では飾り付けが上手く出来なかったので、全てお母さんに飾り付けをしてもらった。
私はこの撮影を通じて、銭湯相生湯の記録と利用者の記憶、そして土佐清水の歴史がここにあると考え記録することに努めた。
しかし撮影してから2年後、火災により相生湯とモカは消失し、その姿を見ることはできない。
■展覧会情報
山下 豊「銭湯 相生湯」
会期:2025年3月7日(金)~3月30日(日)
時間:13:00〜19:00(金曜は20:00まで/8日・9日・15日・16日は11:00〜19:00)
休廊日:月曜〜木曜(金土日のみオープン)
会場:gallery 176
住所:大阪府豊中市服部元町1-6-1
■トークイベント
出席者:山下 豊(写真家)
開催日時:2025年3月8日(土) 17:30〜19:00
参加費:無料
定員:15名
【関連リンク】
https://176.photos/exhibitions/250307/
出展者 | 山下 豊 |
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会期 | 2025年3月7日(金)~3月30日(日) |
会場名 | gallery176 |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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