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新潟県の砂丘館で湊 雅博「海 / FUSION:環」が開催

2025/02/02

新潟県の砂丘館で湊 雅博「海 / FUSION:環」が開催される。

 

抽象としての海
 
私事になるが、新潟市白山浦に転居した42年前、徒歩20分ほどの寄居浜までよく海を見にいった。ことに、荒れた日はいてもたってもいられず、真夜中、高波の飛沫が闇の中を白い生き物のように揺曳する光景など、数知れず見たせいで、今も目に焼き付いている。
 
写真集『FUSION:環』(2019)に鮮烈な印象を受けた写真家、湊雅博に、47年前に出したという『海』という写真集があることを知り、お願いして送ってもらった。
 
写真ページを開いたとき、自分に刻まれた「あの海」たちがよみがえった。
 
キャプションが付されたのは冒頭の一枚のみで、その言葉も「SINCE 1973」とあるだけで、どこの海とは書かれていない。しかし、まったくふしぎな偶然だが、その写真だけは佐渡であることが分った。というのも同じように荒れた日に、ほぼ同じ場所で、私自身が撮ったカラー写真があり(構図もほぼ同じ)、それを30年ほど続けた大学での日本美術史の講義で、枯山水庭園の話をするときに必ず学生たちに見せていたからだ。
 
ほかの写真すべてが、同じ佐渡で撮ったとは思えず、おそらく、いろんな土地で撮影したのだろうと想像したが、その最初の一枚を除けば、場所や土地の特徴を示唆するものはほとんど写しこまれていず、というか、意図的に排除されているようで、「どこの海」を撮ったと感じさせない、語らない写真だけで、一冊の写真集が構成されているのだった。
 
その、一つひとつの海が、監督署小路を抜け、岡本小路の坂を上り、下って自分が会いに行った海であるような気がしてくる。そもそも、あの頃私は、なぜ海を見にいったのだろう。あるいは、人はどうして海を見に行くのか、海を生活や活動の場としない人間が、ときおり海に「会いたい」と感じるのか。
 
抽象という言葉が浮かぶ。
 
海は抽象なのだ。海辺の町に暮らす、海と日常的にかかわりのない人間にとって、海は純粋な抽象としてあらわれる。防波堤越しに眺める荒波や、水蒸気を立ちのぼらせたり、千々にひび割れる水面や、のたうつ白いかたまりとなる飛沫には、現実的なもので構成される町の空間を満たす「意味」がない、抜き取られている。世界から意味以外を「抽(ひ)」き出して「象(かたど)」った世界が生きて在る。あの頃の私には、そのような――観念的ではない、具体的な抽象を呼吸することが、切実に必要だったのだ。
 
『海・・・No Maritime Mind』は1978年に刊行された。41年後に刊行された湊の実質2冊目の写真集『FUSION:環』では、その抽象の純度がさらに深まっている。それでいて絵画ではない、まぎれもない「写真」としての容貌を強めることで、<記録と表現>の二面だけでは計りきれない、写真の深度を、問いかけている。
 
大倉 宏 (砂丘館館長)

 

■展覧会情報
湊 雅博「海 / FUSION:環」
会期:2025年2月13日(木)~3月23日(日)
時間:9:00~21:00
休廊日:月曜日
会場:砂丘館
住所:新潟市中央区西大畑町5218-1

 

■イベント
ギャラリートーク「2冊の写真集の前とあいだといま」
2025年3月1日(土)14:00~15:30
登壇:湊 雅博+榎本千賀子(写真家)/聞き手:大倉 宏
参加料:500円

定員:30名

 
■プロフィール
湊 雅博(みなと・まさひろ)
写真家として作品制作する傍らディレクターとして風景に係わる写真家の新たな表現と可能性を表象する企画展「リフレクション」(2013,14,15,16年)ほかを開催。個展に1979年「海」コンタックスギャラリー、1989年「DIVISION」ギャラリーMole、2004年「界-Border」再春館ギャラリー、2006年「累」UP FIELD Gallery 2007年Studio primo 2 gallery、2008年「環-fusion」UP FIELD Gallery、2019年「FUSION:環」森岡書店銀座店。主なグループ展に1977年「今日の写真展・77」神奈川県民ギャラリーホール、1986-88年「FOTO MANIA展」世田谷美術館区民ギャラリー、1990年「写真150年 海の写真名品展」下関市立美術館、1998年「THE PHOTOGRAPH SHOW『LAND SCAPE』」青山スパイラル/エスプラード、2000年「SHOW・CASE」gallery SHIZEN、 2007,08,09,10 年「ながめる まなざす」ほか UP FIELD Gallery、2013年「映像2013」世田谷美術館区民ギャラリー、2019年「イメージと抽象」新潟絵屋。著書(写真集)に『海・・・No Maritime Mind』1978年 Trans Inc、『海』1986年 沖積社 詩:川崎洋、『FUSION:環』2019年 Super TransInc.がある。
 
【関連リンク】
https://www.sakyukan.jp/2025/01/10868

展覧会概要

出展者 湊 雅博
会期 2025年2月13日(木)~3月23日(日)
会場名 砂丘館

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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