©Yoshinori Marui
東京麻布のPGIで圓井義典 作品展「写真という寓意」が開催される。
本展では新作となるシリーズ「写真という寓意」から約40点を展示する。
圓井義典は東京芸術大学美術学部デザイン科在学中より写真作品の制作を始めた。初期作、「地図」(2003年)や「海岸線を歩く」(2008年)では、知覚できる世界についての新しい発見、つまり知覚世界についてより一層想像力を膨らませるきっかけを、眼前の事物の細部描写に見出してきた。光を主題とした「光をあつめる」(2011年)の頃から、写真術と事物とのかかわりそのものを考えることが、より直接的に知覚できる世界について想像を膨らませるきっかけになる、と考えるようになる。そうやって考えてきた一つの結果として前作「点−閃光」(2016年)があり、そこから派生して前作「天象(アパリシオン)」(2020年)が生まれた。
本作「写真という寓意」は、世界の汲み尽くせない豊かさをテーマとする寓意作品だ。写真が想起する記憶と現実の差異、そこから広がる未知の可能性を見つめる本作では、新型コロナウイルス感染症の流行以降に撮影された、明と暗、光と翳、美と醜、都市と地方、人工物と自然物、生老病死、真面目と遊びといった私たちをとりまくものの持つ複雑で多様な性質を象徴する写真で構成している。
写真という寓意
スマホにたまった写真を見返していたある日、それらの写真がとてもよくできた喩えのように思えた。
写真一枚一枚がある事物や出来事、世界の視覚的断片だとすれば、つないだ娘の手のぬくもりやSNSで目にしたコメント、そんな私自身の日々の記憶ひとつひとつも、私自身がとらえた世界の断片のようなものだといえるだろう。
ところで、自分で撮ったことさえ忘れていた写真や他人の写真を見て、偶然そこに新しい何かを見出したり、写された人の知らない一面を見出したりすることは、きっと誰にでもある経験にちがいない。もしそうだとすると、そして私たちの記憶も写真と同じく世界の断片のようなものなのであれば、自らの人生やこの現実に対するこれまでとはまったく違ったイメージを、私たち自身が忘れていた記憶の中に、そして他人の記憶の中にある時ふと見出す可能性がいつでも潜んでいるということではないだろうか。
ここにある写真たちは、ここ数年のあいだに偶然何かの拍子に撮影されたもの、私の記憶そのもののような存在だ。なぜそれを撮りたいと思ったのか、誰が撮ったのかということすら(中には娘たちが撮ったとおぼしきものもある)忘れてしまったものさえ含まれている。
それらの写真をあらためて見返す行為は、私にとってはいつもは通らない道を歩いてみるような、あるいは久しぶりのパサージュを散策するような、そんな新しい発見のためのちょっとした冒険でもある。
それによって実際に何かが見つかるかどうかはあまり重要ではない。むしろ、未知の可能性が、汲みつくせない世界の断片が、今も目の前のどこかに隠れているにちがいないということをあらためて確かめることこそが、私にとっては何よりも大切なのだ。
2024年11月
圓井義典
- ■展覧会情報
圓井義典 作品展「写真という寓意」
会期:2025年2月5日(水)~3月15日(土)
時間:11:00〜18:00
休廊日:日曜日・祝日 展示のない土曜日
会場:PGI
住所:東京都港区東麻布2-3-4 TKBビル3F
■プロフィール
圓井 義典(まるい・よしのり)
1973年大阪生まれ。1996年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。1997年東京綜合写真専門学校研究科修了。2020年より東京工芸大学芸術学部写真学科教授。
大学在学中より写真作品の制作を始め、2000年ごろから現在のテーマである「写真×哲学」に連なる作品を発表してきた。
風景の匿名性を問うた「地図」(2003)、歴史が土地にもたらした意味を探る「海岸線を歩く – 喜屋武から摩文仁まで」(2008)、そして改めて写真と光のもたらす美を追求した「光をあつめる」の三作を経て、「見ること/写すことによって世界は克明になるが、そのことによって同時にむいしきにすてさっているものがある」ということを、見る人と共有するための試みを続けている。
主な個展に「失踪」Gallery Floor 2(東京 1996年)、「Sight」かねこ・あーとギャラリー(東京 1998年)、「新作展」ギャラリーQS(東京 1999年)、「新作展」exhibit LIVE(東京 2002年)、「新作展」現代HEIGHTS Gallery Den(東京 2002年)、「地図」exhibit LIVE(東京 2003年)、「沖縄」exhibit Live & Moris(東京 2005年)、「海岸線を歩く—喜屋武から摩文仁まで」フォト・ギャラリー・インターナショナル[以下P.G.I.](2008年)、「光をあつめる」P.G.I.(2011年)、「点—閃光」PGI(2016年)、「天象 (アパリシオン)」PGI(2020年)などがある。
「沖縄・プリズム 1872-2008」(東京国立近代美術館 2008年)など多数のグループ展にも参加。
【関連リンク】
https://www.pgi.ac/exhibitions/10558
出展者 | 圓井義典 |
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会期 | 2025年2月5日(水)~3月15日(土) |
会場名 | PGI |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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