小池 英文『THE DELTA: Ganga Sagar Island 1999-2024』がPRASADA BOOKより刊行された。
インドのガンジス川の下流域には、広大なデルタが広がっています。
その南端に浮かぶガンガサガール島を訪ねて25年が過ぎました。
島は聖なるガンジス川が海と出会う場所として、古来より人々の信仰を集めてきました。打ち寄せる波に身を投げ出し、歓喜の声を上げて海に祈りを捧げる人々の姿は、まるで海に生まれた生命の記憶が呼び覚まされてゆくような、とても美しい情景でした。
一方、訪問を重ねるたびに見えてきた風景もありました。
それは島の海岸線に刻まれた天災の爪痕です。
サイクロンの通り道にあたるこの地域は、高潮によりこれまで多くの犠牲者を出してきました。それでも島に暮らす人々は、自然に打ち勝とうとは考えてこなかったといいます。彼らの自然に対する考え方は、恐ろしいから大事にする、というものです。自然にいたずらに抗うのではなく、それを神格化することで巧みに価値転換をはかってゆく。たとえば海に飲まれて命を落としたとしても、「母なるガンジス」に還ってゆくのだから幸せなことだ、とその死を人生最大の至福へと昇華させてゆきます。おそらく彼らの胸の内には、自分たちの生命も自然界の一部だという意識が、今もしっかりと息づいているのかもしれません。
堅牢な防潮堤で自然と一線を画すのではなく、生死を内包する大きな自然観によって心の安寧を保つ人々。熱帯デルタに生きる人々の姿を通して、人と自然との関係性をもう一度問い直してみたいと思います。
(2024年9月に新宿 OM System ギャラリーで展示した際にリリースされたテキストより)
■プロフィール
小池英文(こいけ・ひでふみ)
写真家。1964 年東京都生まれ。都立高校を一年間休学し米・カリフォルニア州に渡る。現地公立高校を卒業後、アメリカ全土を旅する。大学卒業後は海外取材を繰り返し、写真と記事を多くの新聞や雑誌に発表。近年は国内にも目を向け、2017 年に写真集「瀬戸内家族」(冬青社)を刊行。同作で林忠彦賞最終候補にノミネートされる。また同名のフォトエッセイを産経新聞およびYahoo ニュースに連載中。
小池 英文『THE DELTA:Ganga Sagar Island 1999-2024』
出版社:PRASADA BOOK
発売日:2024年9月12日
仕様:285×225mm、176ページ
価格:6,600円+税
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https://koike.asia
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