サトウヒトミ『Mirage』が刊行された。
サトウヒトミの作品と言えば常に「レイヤー」がキーワードとなる。「Layered NY」(2017年)、「Lady,Lady,Lady」(2019年)では、ゲタの高さを変え凹凸をつけたり大判の透明フィルムにプリントし、空間にレイヤーを作る展示構成が特徴的だった。「over the window」(2023年)は、かつて旅をしたヨーロッパやアメリカのスナップ写真と東京での身近な風景をパソコン上で重ね、サトウの脳内で架空の旅をしながら唯一無二の世界を作り上げる手法を取っている。
今作「Mirage」もパソコンを駆使し制作しているところに変わりはないが、軽やかで華やかな世界観を持つ過去の作品とは一線を画している。これまでは外界への憧れのようなものがサトウの眼差しから見て取れ、鏡と窓で言えば「窓」のイメージが強く感じられた。それに対し「Mirage」はイメージの抽象度が増しており、時間や場所の曖昧さが際立つ。コロナ禍による心境の変化はサトウにとっても例外ではないだろうが、それよりも内在的な視点で世界を眺め、過去の自分と向き合っているような神妙さを感じる。時間や場所の重要性よりも、記憶という曖昧な存在を意識した作品に仕上がっている。
■プロフィール
サトウヒトミ
お茶の水女子大学舞踊教育学科卒業後、日本航空国際線客室乗務員として勤務。東京ビジュアルアーツで写真を学び、海外のストリートスナップを撮り続けてきた。コロナ禍をきっかけに、レイヤーを用い異なる時間と場所が接続する「時空を超えたストリートスナップ」の制作を始める。2018年ZOOMS JAPAN パブリック賞受賞。主な個展に「Layered NY」(2017年 ソニーイメージングギャラリー)、「Lady,Lady,Lady」(2019年 ソニーイメージン グギャラリー、ライカストア横浜、福岡)、「mosaic of feelings」(2019年 ライカカフェプラハ)、「over the window」(2023年 キャノンギャラリー銀座、大阪)など。作品集に『イグアナと家族とひだまりと』(日本カメラ社)、『over the window』(PURPLE)がある。
サトウヒトミ『Mirage』
写真・デザイン:サトウヒトミ
ページ数:32ページ
サイズ:B5版
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