金川晋吾『明るくていい部屋』がふげん社より刊行された。
私が誰かと一緒にいることを模索しようとするのは、私の中にさみしさがあるからだ――
三人、そして四人での共同生活を、光溢れる写真と文章で綴るドキュメンタリー
『father』や『長い間』など、父親や伯母という血縁関係にある身近な他者を被写体に、人間の分からなさを問い続けてきた写真家・金川晋吾の最新作『明るくていい部屋』をふげん社より刊行された。
本作は、2019年から現在まで、アーティストの百瀬文と斎藤玲児と自身による、女男男三人の共同生活を、118点の写真と2万5千字の文章とともに綴ったものだ。
2組の男女のカップルから始まった関係性は、三人での共同生活を経て、次第に変容していく。金川は、血縁関係でもなく、婚姻関係でもない他者との暮らしを始めたことにより、難航する物件探し、共有スペースに対する三者三様の態度、家事の役割分担などに直面し、戸惑いながら一つ一つ手探りで実践していく中で、さまざまな「生」や「性」の在り方を模索していきた。2022年からさらに森山泰地が加わることで、四者の関係はさらに変容していくことになる。
時系列に並んだ五年間の写真、そして実直に綴られた素朴な言葉は、それぞれの自由を尊重する彼らと関わりあう中で、一対一の性愛関係や、ジェンダーなどの社会から要請される型から自然と逸脱していく、金川自身の容姿や考えの変化をも記録している。
二面採光の部屋でくつろぐ彼らの生活は、伸びやかで開かれている。性愛ベースではない、新たな「家族」像が現在進行形で構築されていくこのドキュメンタリーは、私たちが現代を生きていく上での明るい希望となるだろう。
「私は「家族は大切」であり「大切なものは家族」みたいな考え方、家族と家族でないものを分断するような価値観に抵抗したい。ただその一方で、文ちゃんや玲児くんのことを「家族」と呼ぶことにしっくりと来るということも、事実としてある。家族という言葉を必ずしも毛嫌いしなくても、少しずらした使い方をすることでその内実を書き換えていくという方向もあると思う」
「私が誰かと一緒にいることを模索しようとするのは、私のなかにさみしさがあるからだ。私がここで言っているさみしさというのは、自分が何かを感じたり思ったりしたことをただ自分のなかに留めておくのではなく、誰かに受け取ってもらうことを求めずにはいられない切なる思いのことだ」
(本文より)
■プロフィール
金川晋吾(かながわ・しんご)
1981年京都府生まれ。2006年神戸大学発達科学部人間発達科学科卒業。2015年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。2010年第12回三木淳賞、2018年さがみはら写真新人奨励賞、2024年第40回写真の町東川賞新人作家賞を受賞。主な著書に『father』(青幻舎、2016)、『長い間』(ナナルイ、2023)、『いなくなっていない父』(晶文社、2023)がある。現在、『文學界』で連載中。
金川晋吾『明るくていい部屋』
2024年10月5日発行
著者:金川晋吾
デザイン:田中せり
発行所:ふげん社
サイズ:A4変型(h230×w200mm)
仕様:糸かがり上製本・ホローバック
頁数:152頁
写真点数:118点
定価: 4,290円(税込)
【関連リンク】
https://fugensha-shop.stores.jp/items/66f678f3ff39a103feabfd43
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