東京都写真美術館で開催中の「アレック・ソス 部屋についての部屋」展覧会図録が刊行された。
アレック・ソス(1969〜、アメリカ・ミネソタ州生まれ)は、国際的な写真家集団、マグナム・フォトの正会員であり、生まれ育ったアメリカ中西部などを題材とした、写真で物語を紡ぎだすような作品で、世界的に高い評価を受けてきた。
本展「部屋についての部屋(A Room of Rooms)」には、初めて出版されたシリーズであり、初期を代表する〈Sleeping by the Mississippi〉から、2024年秋刊行の最新作〈Advice for Young Artists〉まで出品される。30年に及ぶソスの歩みを単に振り返るのではなく、選ばれた出品作品のほぼすべてが屋内で撮影されているように、「部屋」をテーマにこれまでのソスの作品を編み直す、当館独自の試みとなる。
出品作品のひとつに〈I Know How Furiously Your Heart is Beating〉というシリーズがある。アメリカの詩人、ウォレス・スティーヴンズ(1879〜1955)の詩「灰色の部屋(Gray Room)」の一節からタイトルがとられた本作は、2019年に同名の写真集としてまとめられ、ソスのキャリアにおいてひとつの転換点となっている。
初期からソスはアメリカ国内を車で旅し、風景や出会った人々を大判カメラで撮影してきたが、本作ではそうしたロードトリップのスタイルではなく、舞踏家・振付家のアンナ・ハルプリン(1920〜2021)や、小説家のハニヤ・ヤナギハラ(1974〜)など世界各地にさまざまな人々を訪ね、その人が日々を過ごす部屋の中で、ポートレイトや個人的な持ち物を撮影している。すなわち、部屋とそこに暮らす人をテーマとするこのシリーズが、本展を生み出すきっかけとなった。
〈I Know How Furiously Your Heart is Beating〉では、静謐な空間で被写体から醸し出される親密さが大きな魅力となっている。「どれだけ激しくあなたの心臓が鼓動しているのか知っている」というタイトルは、その瞬間を写し留めたソスの胸中だけではなく、展示室というひとつの部屋の中で、作品と対峙するわたしたちの心の内までをも言い表しているかのようだ。
「ポートレイトや風景、静物などを定期的に撮影しているが、最も親しみを感じるのは室内の写真だ」と作家は述べている。ソスの作品に登場するさまざまな部屋や、その空間にたたずむ人々に意識を向けることで、果たして何が見えてくるのか。展覧会と写真集共に多くの支持を得る作家の表現の魅力を探る。
- アレック・ソス 『部屋についての部屋』
- 発行:東京都写真美術館
サイズ:B5判変形
ページ数:152ページ
論考:伊藤貴弘(東京都写真美術館 学芸員)- 価格:3,300円(税込)
【関連リンク】
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4820.html
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