死体写真家としての活動30周年を迎える釣崎清隆。長らく絶版となっている純国産総天然色死体写真集『THE DEAD』の改訂版がクラウドファンディングによって刊行された。あわせて写真展も2024年9月に新宿眼科画廊で開催された。
2018年に刊行された純国産総天然色死体写真集『THE DEAD』は、長らく品切れ絶版となっていた。今なお世界中から注文の問い合わせが続いているが、当時、印刷製本を引き受けてくれた会社が倒産、年々厳しくなるコンプライアンス問題により新たな印刷所は見つからず、また昨今の印刷・材料費の価格高騰など課題は山積みで、純国産での増刷は不可能と考えていた。
しかし、ここにきて奇跡的に印刷製本を引き受けてくれる会社を発見。もう一つの懸念事項であった印刷・材料費の価格高騰による定価の値上げについては、クラウドファンディングの予算を利用することである程度抑えることが可能と判断し、今回『THE DEAD』の復刊とともに活動30周年を記念した写真展を企画した。
- ■クラウドファンディングの立ち上げにあたって
死体写真を撮り始めてから今年で三十年になる。
私は世界の危険地帯で死の現場を巡りながら、死体という究極の被写体と格闘する命懸けの挑戦にやりがいと誇りをもって取り組んできた。
タイのレスキューとの同行取材に始まり、冷戦後の混乱にあるロシアを目撃し、二〇世紀末から果てしなく続く中南米の麻薬戦争を追う中で、9.11を迎えてパレスチナの対テロ戦争を取材し、3.11直後の東北の罹災地を訪れてからここ最近は、特に我が祖国を見つめなおす旅路にある。
一方でこの三十年は、表現の自由を懸けた戦いの日々でもあった。死体の過激表現は九〇年代当初から苛烈な批判に晒され、発表の場を制限されてきた。近年はますます世界の漂白が進み、もはや活動を続けていられること自体が奇跡のようである。
そんな中で二〇一八年、幸運にも四半世紀分の作品をまとめた死体写真集『THE DEAD』を上梓し、好評のうちに完売することができた。昨年にはこの『THE DEAD』と対になる、死体以外の写真集『THE LIVING』を発表し、私の世界観を完結する目論見が一応の完成を見た。そのはずであった。
いま世界は重大な歴史的分水嶺にある。『THE DEAD』刊行後の世界はますます混迷を深め、私は二〇二二年にウクライナの戦場へ導かれ、戦死者と邂逅した。
私はこの三十年という節目に、新たな海外取材を敢行し、未発表の素材を含めた真のアンソロジーとなる『THE DEAD』の改訂版の刊行、個展の開催を企図するものである。
私の仕事は路上に斃れた名もなき死者に名前を与えることだ。そんな私の目には、いまの我が国に路上哲学が決定的に足りないように見える。
敢えて「メメント・モリ」を叫ばねばならない時代が来たと感じている。
釣崎清隆
■プロフィール
釣崎清隆(つりさき・きよたか)
昭和41年富山県生まれ。写真家・映画監督・文筆家。慶應義塾大学文学部卒。学生時代から映画制作、文筆活動に従事し、AV監督を経て平成6年からは写真家としても活動開始。ヒトの死体を被写体にタイ、コロンビア、ロシア、メキシコ、パレスチナ等世界中の無法地帯、紛争地域を渡り歩き、これまでに撮影した死体は 3000体。著作に『死体に目が眩んで』『死者の書』『エメラルド王』『原子力戦争の犬たち 福島第一原発戦記』等。写真集に『REVELATIONS』『REQUIEM DE LA RUE MORGUE』『DEATH』『THE DEAD』『THE LIVING』等、映画監督作品に『死化粧師オロスコ』『ジャンクフィルム』『ウェイストランド』等がある。世界でもっとも死の現場に立ち会っているアーティストである。
釣崎清隆写真集『改訂版 THE DEAD』
サイズ:A4判
ページ数:192ページ
仕様:カラー・並製・函入
1000部限定
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