石内 都『STEP THROUGH TIME』が刊行された。本作は2024年8月から12月に大川美術館で開催されている同名展示の図録となる。
国内外で活躍し、すでに高い評価をうけている石内 都は、「生」と「時」の痕跡を、鋭く、繊細に撮りつづけているアーティストだ。半世紀にわたる長い活動のなかで撮られた〈APARTMENT〉(1977-78年)〈Mother’s〉(2000-05年)、〈ひろしま〉(2007年-)など初期からの代表的なシリーズに加え、近作の〈From Kiryu〉(2018年-)まで自選された内容となっている。
■モノクローム― 石内のプリントによる初期作ヴィンテージプリントの展示
初期作〈はるかなる間〉(1976年)、〈絶唱、横須賀ストーリー〉(1976-77年)、〈APARTMENT〉(1978年)、〈連夜の街〉(1978年-)、〈壜づめの時間〉(1981年)、〈上州〉(1982年)といった壊されゆく風景のシリーズを一堂に展示する。1981年、昭和初年に建築された東京歯科大学の取り壊しを機に依頼されて撮った〈壜詰めの時間〉は、1982年の発表以来、久々の発表となる。
■Mother’s
「石内都」という名は、母の結婚前の姓名。2000年に亡くなった母の「不在の証」を遺品のひとつひとつと向き合いながら丹念に撮影したシリーズ。石内の写真に立ちあがる肉親の生死へのまなざしは、普遍的な感情として国境を越え、多くの人々に多様な感情を喚起させる。
■ポートレート―身体の器、蓄積された時
石内は、1980年代半ばに、〈同級生〉〈1・9・4・7〉といったシリーズを手がけまた。本展では、自らと同じ時間を過ごしてきた「身体」を凝視するこれらのシリーズとともに、石内の母、父、祖母、そして、石内が敬愛する表現者たち(伊藤比呂美、青木野枝、新井淳一)の顔、手、足、皺、髪、爪を被写体としたポートレートだ。
■〈Moving Away〉〈From Kiryu〉
43年間を暮らし、仕事をし、人々を迎えた場所・金沢八景を離れるまでの時間をセルフポートレートとして写した〈Moving Away〉(2015-2018年)から暗室周辺を撮った作品を展示する。そして桐生に転居し現在まで、栄枯盛衰の街・桐生を歩き撮った〈From Kiryu〉(2018年-)を初公開する。
■存在と不在―〈Scars〉〈INNOCENCE〉〈AtoA〉、そして〈ひろしま〉新作
1990年頃から撮りはじめた身体にのこる傷跡を被写体とした代表的なシリーズから、これまで展示の機会が少なかった作品を紹介する。同展示室では、2007年に被爆した人たちの遺品を初めて撮影して以来、「ずっと出会いを維持し続けているようなシリーズ」と自ら語る〈ひろしま〉から、新作9点を展示。石内がとらえた複雑な美に個々人の物語を読み取る。
■表層/深層―「スカジャン」と〈The Drowned〉
桐生に居を移して間もなく石内は「スカジャン」と再会する。桐生に生まれて横須賀に育った石内にとってそれは、戦後史と個人史とが合致する瞬間だった。一方、「スカジャン」を撮り続けていた2019年、川崎市市民ミュージアム収蔵の石内作品〈APARTMENT〉(1899年)は、台風による被災に遭う。壮絶な現実を直視した石内は、そこから新しい作品として〈The Drowned〉(2020年-)を撮り発表した。近作両シリーズの往還にみる写真の表層と深層を考える。
■テキスト
「時を渡る」石内 都
「誰かのものを、身近にとどめるために」ロバート・キャンベル
「世界に触れ、世界に触れられる-石内 都の写真について」増田 玲
「石内 都を往還する」小此木美代子
石内 都『STEP THROUGH TIME』
サイズ:146×180mm
仕様:カラー・モノクロ
ページ数:176ページ
価格:2,500円(税込)
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