赤々舎より『没後30年 木下佳通代』が刊行された。本書は2024年に開催された大阪中之島美術館と埼玉近代美術館で開催された展覧会の図録でもある。
神戸に生まれ、関西を拠点に活動した作家、木下佳通代(きのした・かずよ/1939-1994)。木下の作家としてのキャリアは、1960年代、前衛美術の集団「グループ〈位〉」の活動に携わったことから始まる。70年代には、写真を用いながら、イメージと知覚、物質の関係を考察する作品を数多く手がけた。
「絶対的存在と相対的存在はありながらも、存在はひとつでしかない」という考えを明確に表したその極めて理知的なアプローチは、国内外で高く評価された。同時代のコンセプチュアル・アートの世界的潮流と呼応し、1981年にはドイツのハイデルベルクで個展を開催した。
海外での初個展と時を同じくして、木下は作品そのもののコンセプトを変えずに、写真以外の手段で作品制作が可能か試行する。80年代に入ってパステルを用いた作品によって素材と表現の相性を模索した後、再び絵画の制作に回帰し、「存在そのものを自分が画面の上に作ればいい」と考えるに至った木下は、図式的なコンセプトから脱却することに成功した。
シリーズの最初の作品に《'82 - CA1》と名付けて以降、アップデートを続ける筆致とともに、画面上の「存在」はたびたびその表情を変えていく。こうして、一筆ごと一筆ごと、自らの感覚を鋭く問いながら作り出された絵画は高い緊張感を備えており、彼女の表現の集大成とも呼べるものだ。
1990年にがんの告知を受けて以降も、治療法を求めて何度もロサンゼルスを訪れ、現地でも絶えず制作を続ける。94年に神戸で55年の生涯に幕を下ろすまで、再び絵画へ立ち返った1982年以降だけでも、 700点以上の絵画、ドローイングを制作した。
本書は、活動時期をたどるように 3つの章で構成している。公開の機会があまりなかったごく初期の作品から、国内外で高く評価された写真作品、そして1982年以降ライフワークとなった絵画作品によって、その活動の全貌を探る。木下が一貫してテーマとした「存在とは何か」という問いは、現代においても尚、色褪せず強烈に響く。
本書収録「木下佳通代 インタビュー」より抜粋
- 最初、筆で描いてそれから布で、拭って。この拭っているのは、カンヴァスの平面と絵具を置いた面とが、等価であること。自分の中では、今までどおりだから、二次元の面を等価にしたいという思いがあるから、これをやっているわけです。そういう方法をとりながら、作品そのものが存在となるように。宇宙の星などの全ての存在が神様に創られて、ランダムに見えるんだけど、一定の相対的な秩序で、存在しているんですね。でも、我々から見れば、自然に存在していて、その存在は、物凄く強いんです。そのような存在のひとつにしたい。
■本書収録 寄稿:
『今、再び、「みる」ことについて ---- 木下佳通代の作品と活動』大下裕司(大阪中之島美術館学芸員)
「私論 ── 木下佳通代のこと」熊田司(美術史家)
「写真とコンセプチュアリズム」 建畠晢(埼玉県立近代美術館館長)
「思考の結晶 ── 木下佳通代の写真と絵画」光田ゆり(多摩美術大学大学院教授、同校アートアーカイヴセンター所長、プーアール舎主宰)
■プロフィール
木下佳通代(きのした・かずよ)
1939年神戸市長田区生まれ。中学・高校は親和学園(神戸市)に通う。1958年、京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)に入学し黒田重太郎や須田国太郎に師事。1962年、大学卒業後、神戸市立丸山中学校、親和学園などで美術教師を務める。1965年ごろ河口龍夫、奥田善巳らのグループ〈位〉と共に活動する。70年代前半、ギャラリー16(京都)、村松画廊(東京)で定期的に個展を開催した。1977年、第13回現代日本美術展兵庫県立近代美術館賞を受賞。1981年、彫刻家・植松奎二の紹介でハイデルベルク・クンストフェライン(ドイツ)で個展を開催。1982年、第11回ブルーメール賞美術部門を受賞。突如としてこれまでの作風を捨て、抽象絵画の制作を開始。1990年、がんの宣告を受けて闘病生活に入る。治療法を求めてロサンゼルスを度々訪問。現地でも制作を行った。1994年、神戸にて55歳で没する。2015年「来たるべき新しい世界のために:1968年から1979年における日本の写真と美術の実験」 展 (ヒューストン美術館ほか)に出品されたことで、 再び注目を浴び始める。
- 『没後30年 木下佳通代』
発行:赤々舎- 発行月:2024年5月
ブックデザイン:大西正一- 使用:262×188mm、ハードカバー、304ページ、表紙2種
- 価格:3,000円(税別)
【関連リンク】
http://www.akaaka.com/publishing/KAZUYO-KINOSHITA.html
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