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2024年度「ライカ・オスカー・バルナックアワード」ファイナリスト12名が決定

2024/07/28

ライカの国際写真コンテスト「ライカ・オスカー・バルナックアワード(LOBA)」の2024年度ファイナリスト12名が決定した。ファイナリストとのその作品はLOBAのウェブサイトで閲覧できる。
www.leica-oskar-barnack-award.com/en/
 
今年で44回目の開催を迎えたLOBAは現在、厳正なる一次審査を経て、一般部門の「ライカ・オスカー・バルナックアワード」と30歳未満の若手写真家が対象となる新人部門の「ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワード」の両部門において、特に傑出した写真家としてファイナリスト計12名が選出された。最終的な受賞者は両部門とも本年10月10日に開催される授賞式当日に発表される。授賞式はドイツ・ウェッツラーにあるライカ本社で開催され、盛大なセレモニーが行われる予定だ。
 
ファイナリスト選考の前段階として、まず一般部門では世界約50カ国80名の写真のエキスパートによる推薦という形式で、新人部門では世界20カ国の写真関連の高等教育機関による推薦という形式でそれぞれ候補者が選出された後、審査員による審査によって両部門のファイナリストが選ばれた。最終的な受賞者も両部門ともに審査員による最終審査により決定される。
 
授賞式の後には、LOBA受賞者とファイナリストの全作品を展示する大規模写真展がウェッツラーのエルンスト・ライツ・ミュージアムにて写真ラボのホワイトウォールの協賛で開催される。また、受賞者とファイナリストの全作品を掲載したカタログも出版予定。受賞者とファイナリストの作品は、エルンスト・ライツ・ミュージアムでの写真展を皮切りに世界各地のライカギャラリーや写真フェスティバルでも順次展示される予定。
 
LOBAは写真の分野において最も権威あるコンテストのひとつとして、その受賞は大変名誉であるとされている。一般部門の受賞者には賞金40,000ユーロと10,000ユーロ相当のライカのカメラ製品が、また新人部門の受賞者には賞金10,000ユーロと「ライカQ3」がそれぞれ贈呈される。
 
■2024年度ライカ・オスカー・バルナックアワード審査員(敬称略)
ディミトリ・ベック(フランス):ポルカ(雑誌、ギャラリー、コンセプトストア)写真部長
ペール・ギュルヴィ(アメリカ):国際写真センター(ICP、ニューヨーク市)教育部門長
シリル・ヤズベック(スロベニア):写真家(2013年度ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワード受賞者)
アメリー・シュナイダー(ドイツ):『ディー・ツァイト』紙 写真編集部長
カリン・レーン=カウフマン(オーストリア):ライカギャラリー・インターナショナル代表兼アートディレクター

 

■ディミトリ・ベック コメント
LOBAが世界の写真シーンにおいて非常に有意義な賞であり、写真を通じた素晴らしいビジュアルストーリーテリングの発展において大きな役割を果たしていることは間違いありません。今回の12名のファイナリストと作品の選出は、世の中で現在起きている多様な物事の様相とそのストーリーを探求するうえで大きな意味があることでした。

 

■カリン・レーン=カウフマン コメント
ファイナリスト推薦者の皆さまと協働し、さまざまな作品について審査員の一員として意見を交換することができて、今年度もとても楽しく充実した時間が過ごせました。推薦された作品はどれも印象的なものばかりです。精力的に活動する写真家に対して現在起きている難題を写真作品として世に問いかけることができる場を提供するのは、以前にも増して重要になっているように思われます。気候と環境、社会的・民族的紛争、暴力、周縁化が多くの作品でテーマとして取り上げられているのは何ら不思議ではありません。ファイナリストの皆さんの作品はどれも、世界で見られる困難な状況が人間に主眼を置いた視点で描写されていました。今年度はこれまで以上に多くの女性写真家が推薦されていたことも非常に喜ばしいことでした。

 

■2024年度ライカ・オスカー・バルナックアワード ファイナリスト(一般部門/新人部門、アルファベット順、敬称略)
Forough Alaei: The Underneath of the Calm Streets of Iran
フォローグ・アラエイ


2022年9月に22歳の女性マフサ・アミニさんが警察に逮捕された後に急死した事件を契機に、イランでは国の法律に臆することなく反抗する女性が増えている。1989年生まれのイランの写真家が手がけたこの作品シリーズでは、「女性、命、自由」というスローガンどおりに胸を張って生きるイランの若い女性たちが描き出されている。ダンサーからレストランのマネージャー、オートバイレーサー、自動車整備士、スタントウーマンまで、新しい世代の若い女性たちが自らの権利のために闘っているのは明らかだ。
 
Anush Babajanyan: Nagorno-Karabakh War and Exodus
アヌシュ・ババジャニアン


この作品シリーズの背景にあるのは、小コーカサス山脈の南東に位置するアゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフを長年疲弊させてきた紛争だ。ナゴルノ・カラバフの住民は大多数がアルメニア人だが、2023年9月にアゼルバイジャンが軍事行動を起こしたことにより、膨大な数のアルメニア人住民が避難を余儀なくされた。これらの写真には、ナゴルノ・カラバフに暮らしていた家族が体験した恐怖と強制的な移動、そして現在直面している不確かな未来が描かれている。1983年アルメニア生まれで現在はドイツに在住する作者は写真エージェンシー「VIIフォト」のメンバーであり、豊富な受賞歴を誇る。
 
Emily Garthwaite: Tears of the Tigris
エミリー・ガースウェイト


1993年生まれのイギリスのフォトジャーナリストはこの作品シリーズで、トルコに源を発してイラクの河口へ達する全長1,900kmのチグリス川を巡りながら、川にまつわる政治的忠誠、民族的な絆、国境、変わりゆく地形を写真に収めた。チグリス川は現在、深刻な環境破壊にさらされていて、流域に暮らす約3,000万人の生活が影響を受けるおそれがあり、周辺地域の文化遺産も危機に瀕している。
 
Ksenia Ivanova: Between the Trees of the South Caucasus
クセーニャ・イワノワ


1990年にロシアで生まれ、現在はベルリンに在住する写真家が2019年から2023年にかけて制作した作品シリーズ。未だ解決に至らない南コーカサスの紛争に深く切り込んでいる。2008年8月、ロシアは隣国ジョージアに軍事侵攻し、南オセチアとアブハジアの独立を承認した。紛争に巻き込まれたこの地域に待つ未来とは、そしてそこに暮らす人びとへの影響とは。ウクライナ侵攻を見ればそれは明白ですが、この作品は今一度、そうした根本的な問いを私たちに投げかけている。
 
Maria Gutu: Homeland


マリア・グツモルドバには親がいない状態で生活している子どもが大勢いる。また、過去20年で国民の4分の1ほどが経済的な事情から他国へ移住している。この作品シリーズの原点は、1996年に生まれて祖父母に育てられて成人した、モルドバ出身の写真家である作者自身の過去のストーリー。ルーツとは何か、故郷とは何かという探求が詩的にとらえられた作品に仕上がっている。それらの意味は、大人はもちろん子どもの中でも繰り返し変わり続けている。
 
Lucas Lenci: Inattention Era
ルーカス・レンシ


日常生活は感覚への過度な負荷の連続だと感じる人は多いだろう。1980年生まれのブラジルの写真家によるこの作品シリーズで写し出されているのは、何もない公共の空間。作者はそれを、処理できないほどの極度の情報過多のメタファーだと考えている。至る場所で生じている注意散漫や注意不足――そんな時代の様相がそこには見て取れる。
 
Adriana Loureiro Fernandez: Paradise Lost
アドリアナ・ロウレイロ・フェルナンデス


南米ベネズエラの荒廃した姿を個人的な日記のように描き出した、1988年生まれの同国の写真家の作品。10年ほど前から記録されている、祖国崩壊の実情だ。貧困、インフレ、暴力事件――多くの住民が祖国を見限る一方、若い世代の心の中ではまだ希望は失われていない。「ここは美しさと恐怖の狭間にあるパラダイス・ロスト(失われた楽園)」と作者は表現する。
 
Sara Meneses Cuapio: Raízhambre (Root Hunger)
サラ・メネセス・クアピオ


メキシコ・トラスカラ州にある休火山のマリンツイン山。その斜面に広がる森林では今、違法伐採とキクイムシの発生によって大規模な破壊が進行している。この森林破壊は環境だけでなく、森林を儀式の場としているメキシコ先住民のナワ族の文化の世界観にも影響を及ぼしている。その壊れゆく環境と消えつつある文化遺産の関係がこの作品には描かれている。自身の一族もこの地にゆかりがある1995年生まれの写真家が制作した。
 
Davide Monteleone: Critical Minerals - Geography of Energy
ダビデ・モンネレオネ


この先の未来において、過去の過ちを繰り返すことなく持続可能性を実現していくにはどうすればよいのだろうか。再生可能なエネルギー源への移行は世界のエネルギー産業が目指す目標だが、この作品シリーズはそれにまつわる問題点を指摘している。1974年スイス生まれで現在はイタリア在住の写真家は、チリ、コンゴ民主共和国、インドネシアの3カ国でこの作品の撮影を敢行。銅、リチウム、コバルトの採掘を取り巻く問題として、地政学的、社会的、生態的に複雑な影響を浮き彫りにした。
 
Ingmar Björn Nolting: An Anthology of Changing Climate
イングマール・ビョルン・ノルティング


気候変動との闘いにおいて、ドイツは意欲的な目標を設定している。しかし現在の状況は複雑で、矛盾も露呈している。2045年までに気候中立な産業国になることを目指すことで、社会的・環境保護的なダイナミクスが創出され、社会の分断が深刻化する事態が生じている。1995年生まれのドイツの写真家はこの作品シリーズを通して、どのようにして社会的合意によって気候変動への解決策を見出すことができるかを模索している。
 
Tong Niu: Express Delivery
牛童


黄金の10年が過ぎ、中国の物流・配送業界には変化が訪れ、成長がペースダウンしている。この作品シリーズは、1998年生まれの中国の写真家が主に中国・江蘇省で撮影したもの。eコマース(電子商取引)配送やエクスプレス配送に従事する大都市の労働者の日常が大判写真に収められている。これらの労働者はより良い未来を夢見て故郷を後にして大都市にやって来ましたが、作者は労働者が故郷に帰省する旅にも同行して撮影を行った。
 
Etinosa Yvonne: It's All in My Head
エティノサ・イヴォンヌ


1989年生まれのナイジェリアの写真家が手がけている、リサーチをベースにしたマルチメディアプロジェクト。テーマは「暴力やテロリズムの被害体験を乗り越えて生き続けていくこと」だ。ナイジェリアは人口がアフリカ最大の国で、民族も宗教も多様であることから、大小さまざまな紛争や残虐行為が絶えない。作者は2018年からナイジェリア各地でトラウマを抱えた60人以上の大人や子どもと会い、この作品の制作を続けている。
 
【関連リンク】
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