『蒼鉛の町』の作者である山口一郎は1960年富山市に生まれる。40歳のときに富山市でデザイン事務所を構え、仕事の影響で写真を撮る機会が多かったという。2012年に京都芸術造形大学通信教育部の写真コースに入学する。授業に一環で尾仲浩二のワークショップに参加し、ここで尾仲の写真を初めて知り、多大な影響を受けた。それまでデジタルカメラを使っていたが、尾仲と同じカメラ、フィルムで撮影するようになった。なおかつ写真そのものも尾仲と近い対象、つまり日本の中心ではなく周縁にある何気ない風景を選んでいる。本作はこの風景写真で構成されている。
巻末に掲載されたタカザワケンジ氏のエッセイ(ちなみに屈指の名文である)でも指摘しているが、尾仲の写真にそっくりで、なおかつ作者である山口はそれを否定せず、むしろ前向きに肯定しているようだ。それも以前から尾仲浩二の写真に憧れて、というものではなく前述したように、大学の授業で受けたワークショップまで写真を知らなかったという。
実際、ページを捲ると尾仲の写真と似ている。だが、よくよく見るうちにやはりこれは山口一郎の写真ではないかと、感じてくる。近景と遠景の中間にあるような距離感の写真や、相撲大会らしきイベントを撮影した写真などを見ると、微妙に尾仲浩二とは異なる世界観があるように思える。山口は尾仲と同い年だという。それぞれの足跡は異なるが、何か同時代を生きた者として、ものの見方や感受性に共通するものがあったのかもしれない。尾仲の写真に憧れてというより、山口の底にある世界の見え方が尾仲と一緒だったのかもしれない。
- 山口一郎写真集『蒼鉛の町』
- 発行:私家版
- 発行年:2017年
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