王子直紀の『吐噶喇 5』は2024年1月に開催された写真展にあわせて刊行された。
【展覧会ピックアップ】東京・新宿のphotographers’ galleryで王子直紀「吐噶喇」が開催
吐噶喇列島は、九州と奄美・沖縄に挟まれるかたちで点在する有人7島と無人5島の島々で構成されている。終戦後に北緯30度線が国境線となり列島が分断されたのち、1952年に本土復帰を果たしている。2016年には領海保全を目的とした有人国境離島法が成立するなど、個々の暮らしがいまもなお政治情勢に左右され続けている場所でもある。
王子は2007年に吐噶喇列島を訪れてから、厖大な量のスナップショットを撮り続けることで吐噶喇列島という場所に関わってきた。「吐噶喇」では場所をあからさまに象徴するようなものが写されることはなく、そこに暮らす人や動植物、看板や建物などが、ときにはてらいなく真正面から、ときにはブレやボケをともなって写されている。
王子はそうした写り方を、効果や演出としてではなく、カメラという光学装置を媒介にすることでしか得られない原理的なものとして肯定し、受け入れてきた。
そうして写された写真はどこか馬鹿馬鹿しさや滑稽さ、ときには寂しさや機知を感じさせると同時に、その場所に触れさせられたような感覚を与える。王子にとって「吐噶喇」は、象徴的ではないものを撮り、カメラの原理を肯定し続けるなかで吐噶喇という場所を立ち現そうとする試みだ。
- 王子直紀「吐噶喇 5」
発行:KULA
発行日:2024年1月10日
- 仕様:A5判変形、中綴じ、モノクロ32頁、スリップケース入り
- 価格:900円(税別)
【関連リンク】
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