本作は2021年1月7日から19日にかけて新宿にあるギャラリーAlt_Mediumで岡田翔のキュレーションによる展示を元に構成されたカタログである。展示内容を撮影した写真と小松、岡田、美術評論家の光田ゆりによるテキストが収録されている。
本書に収録された写真を見る限り、これまで小松が実践してきたように写真=紙が壁面や床を支配し、イメージが印画されたロール紙が無造作に配置されている。写真が内包する物質性を押し出したその印象は、むしろ清々しい。
そして展示の模様を記録した写真を見ているうちに、これが窓越しに撮影されていることに気付く。展示の期間はコロナ禍によって行動に制限されていた時期にあたる。そうした状況を逆手に取るように、展示空間への入室を禁止にして、窓から鑑賞する形式で行ったという。Alt_MediumのHPにこう書かれている。
出展作品である積み重なったロール紙が時間の経過とともに歪み、形を変えていくという変化を見ることができます。今回の取り組みは、「展示」と「保存・保護」といった矛盾した関係性を俯瞰する取り組みです。
本書のカタログで小松が寄稿したテキストに「パノプティコン」という言葉が出てくる。18世紀の哲学者ジェレミ・ベンサムが構想した刑務所の構造のことを指しており、pan-は「すべてを」(all)、-opticonは「みる」(observe) の意で、「全展望監視システム」と訳されることもある。のちにフランスの哲学者ミシェル・フーコーが著書『監獄の歴史 監視と処罰』の中で、管理・統制された社会システムの比喩として「パノプティコン」を用いている。
窓から覗くその行為はまさに監視のそれに近い。ギャラリー空間の中は立ち入ることは出来ず、期間中写真=紙は逃げることも出来ず、窓からの視線に晒されていた。見る行為に特化した写真=紙が徹底して公衆の面前に晒され続けている時間は、見る行為という特権、見ることの権威性が生じる。本作の展示は見ることの本質を暴き、本書でもって展示行為を振り返り、冷静に検証されている。
- 小松浩子『自己中毒啓発』
- 300 Limited Edition
- 36 pages
- 19 ×19cm
- B/W
- Designed by Daichi Aijima
- paper company, 2021
- 価格:1,100円
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