H.J『eyes』

2024/03/13
髙橋義隆

名古屋在住の匿名・作家H.Jによる2冊組の写真集である。1冊目にはヨーロッパで撮影した街角ですれ違った恋人たちの瞬間が、2冊目には作家が若い頃に撮影した亡き妻の姿が、それぞれ収録されてるいる。
 
1冊目は映画のスチール写真で見られるような瞬間の恋人の世界観を、光を基調にして表現したという。
 
2冊目は昭和40年代のアルバム写真からスキャンし、当時の色合い・風合いを残して構成されている。現代では見られない当時のレトロな写りや色合いを表現し、個人の心に眠る思い出をも柔らかに刺激してくるようだ。
 
本作の編集は写真家の渡部さとるだが、彼が運営するYouTubeチャンネル「2B channel」で紹介したところ、注文が殺到し、完売したとのこと。
 
個人的には2冊目が印象に残った。50年前以上に撮影された写真は独特の風味をもって、過去の時間が記録されている。1冊目と比較したときカメラもレンズも違い、デジタルとフィルムと記録媒体も異なる。クオリティでいえば1冊目だろうが、2冊目にある過去の写真の方が惹き付ける魅力がある。そこには撮影者と被写体と関係性も影響しているだろう。ごく自然な態度でカメラを向ける姿勢が写真から伝わり、被写体である女性も衒いのない表情と立ち居でカメラの前にいる。このありようを見ていくうちに写真に内在する記録と記憶の作用が、混淆されているように感じられ、写真がもつ独特の作用を感じざる得ない。

 

  • H.J『eyes』
  • 発行:冬青社
  • 発行年:2023年11月
  • 仕様:B5変形、80ページ
    定価:4,500円(税別)

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