作者の佐伯剛は雑誌『風の旅人』の編集者、発行人として活躍し、現在は自ら写真家として作品発表を行っている。本作はライフワークとなりつつあるシリーズの4作目となる。
日本各地にある古代遺跡や『古事記』『日本書紀』などの文献を参考にして、ピンホールカメラでもって撮影している。ピンホールカメラを使用する理由として、佐伯はこう述べている。
「湿潤な風土の中の日本の聖域は、古代ギリシャや古代エジプトのように明確な輪郭を残し続けていないところが多く、高性能レンズ付きカメラで撮影しても、かえって、朽ち果てて崩れ去った状況が強調されるばかりで、敢えて、針穴を通過する光だけで撮影を続けています」
高性能なカメラの場合、事物の輪郭をシャープに再現することはできるが、ピンホールカメラの場合「針穴を開けたままの数分間で、風の動きや陽光の移ろいを含め、場の揺らぎが反映される」という。この揺らぎを求めてピンホールカメラを使用することになった。
なぜ風の動きや陽光の移ろいを求めたのか?
「聖域が、なぜその場所にあるのかという理由は、物それ自体よりも、場の空気が伝えてきます。」
本作を見るとたしかに空気が漂っている。ピンホールカメラの表現力というのもあるが、痕跡や遺跡を事物として捉えるのではなく、その場に漂うなにものかを掴まえようとしているようだ。
本作は写真とテキストで構成されており、日本各地に点在する古層の様相をひとつの解釈して読解することもできる。歴史学や考古学は科学的な面が強く、検証と実証の積み重ねで新たな解釈が生まれる。本作には学問的な要素もありつつ、日本という国をどう見るか作者の思想が色濃く反映されている。
- 『始原のコスモロジー〜日本の古層vol.4〜』
- ピンホール写真・文章:佐伯 剛
- 発行日:2023年12月20日
- 仕様:297mm×210mm×12mm、120ページ
- 価格:1,500円(税込)
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https://www.kazetabi.jp
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