「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」は、中堅アーティストを対象に、海外での展開も含め更なる飛躍を促す ことを目的に、2018年度から実施している現代美術の賞だ。
5回目となる「TCAA 2024-2026」では、選考委員にレズリー・マ氏(メトロポリタン美術館 アソシエイト・キュレーター) が加わり、計6名の選考委員によるスタジオ訪問や面談を経て、2名の受賞者、梅田哲也と呉夏枝を選出した。
2024年2月17日(土)には授賞式および受賞記念シンポジウムを開催する。
■受賞者・受賞理由
梅田哲也(うめだ・てつや)
1980年熊本県生まれ、大阪府在住
- 発表する場所の地政学的、環境的特徴に対する洞察が、自身の表現言語で翻訳され、作品として昇華されている点が高く評価されました。歴史やシステムといった重いテーマを扱いつつ、人間の感覚への信頼にもとづいた表現は詩的で軽やかで、空間の物理的な制約をポジティヴに解釈、転用する手腕にも優れています。鑑賞者の体験を重視する作品からは、作家の倫理的な態度を見ることができ、鑑賞者が自発的に場の探索を始められる丁寧かつ親密な仕掛けが特徴的です。視覚文化に対する明確な理解にもとづいた分野を超えたストーリーテリングによってそれらを統合する表現力は突出したものでした。
呉 夏枝(OH Haji)
1976年大阪府生まれ、オーストラリア在住
- 大きな歴史およびそこで掬いきれない個人の小さな物語の両方への等しい眼差しが特徴で、染、織といったテキスタイルの形をとる制作それ自体も地政学、女性史、移民・移住の歴史を表象するものとなっています。物質文化としてのテキスタイルの技法と素材を丹念に研究し、かつ高い技術を備え、それらを表現する題材をコンセプチュアルに用いている点が高く評価されました。また、現在作家が制作している作品群は、個人の生に焦点を当てるのみならず、階級と労働に関する調査を交差させたアプローチであり、歴史だけでなく、ジェンダーや移民、自然環境の問題とも接続可能である潜在性が評価されました。
■選考委員長による総評
写真や映像といったデジタル・メディアを用いる作家が多かったですが、メディウムの選択や使い方、展示方法には新鮮さや驚きを感じるようなものは残念ながら少なかったです。自身の国籍や属性、ジェンダー・アイデンティティが制作当初の動機でありながら、そこから他の個人や集団の歴史、経験へと接続していこうとする意思が強く反映された作品が多く、作家が制作の過程で関わる人々と時間をかけて丁寧に信頼関係を築いていることに感心しました。マイノリティや移民の問題は、彼らが存在する場所の歴史や地政学に根付く問題ですが、その一方で、世界のあらゆるところにある問題であるとも言えます。マイノリティの問題を日本固有の問題として設定せずに語る方法を探ることで、大局的な問題が顕在化し、より多くの人々と作品を通して問題を共有する可能性が開かれるのではないでしょうか。
高橋瑞木[CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)館長兼チーフキュレーター]
■授賞式および受賞記念シンポジウム
開催日:2024年2月17日(土)
授賞式:14:00〜14:30(開場13:30)
受賞記念シンポジウム:14:40〜16:10
会場:東京都現代美術館地下2階講堂(江東区三好4-1-1)
※入場無料・要事前申込・先着順。日英同時通訳あり。
◼️受賞記念シンポジウム
TCAA2024-2026の選考委員による選考の総評や「同時代性」「社会性」など選考会で議論になったポイントについて振り返る。また、受賞者2名が自身の作品や制作について話す。
申込:2024年1月25日(木)〜2月15日(木)
https://tokyocontemporaryartaward.jp/news/form/1738
登壇者:梅田哲也(オンライン参加)、呉 夏枝
選考委員:
野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター)
鷲田めるろ(十和田市現代美術館 館長/東京藝術大学大学院 准教授)
近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター)
モデレーター:
塩見有子(特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT /エイト]ディレクター/TCAA 選考会運営事務局)
【関連リンク】
https://tokyocontemporaryartaward.jp/news/tcaa2024-2026-winners_ceremony_sympo.html
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