作者である渕上裕太は、四谷にあるトーテムポール・フォトギャラリーのメンバーとして在籍し、このギャラリーを中心に作品を発表してきた。上野公園で撮影したシリーズもこの場で発表し、今回「塩竃フォトフェスティバル2022大賞」の副賞として、本作『上野公園』が制作された。渕上にとって初の作品集となる。あとがきによると2020年3月から2023年5月の期間に撮影したものでまとめられている。
写真学校を卒業後、スタジオに勤務しながら上野公園で写真を撮り続けたという。その多くはポートレートであり、被写体となる人々はみな個性的な趣きがある。彼らの視線を見ると、強く訴える感じでもなく、他人行儀な感じでもない。ふとした会話を交わす中でときおり見せるような眼差しのように思える。
写真家は上野公園に集う人々と、絶妙な距離感を保ちながらコミュニケーションを計り、タイミングを見てシャッターを押しているように感じられる。そこには写真家自身が思う人間関係の機微が反映しているようにも思える。
たとえば鬼海弘雄は浅草寺の周辺にいる人に声をかけて、決まった場所を背景に撮影した。鬼海の意図はあるものの、人に対する姿勢に敬意が伝わってくる。原芳市はストリッパーや女性を撮影するとき、ある種の神々しさを感受し、シャッターを押したという。
単純に比較はできないが、『上野公園』の写真からも鬼海や原に近い姿勢があるように思える。あとがきに上野公園にいる絵描きが「人間は、とても醜悪でありながら同時に美しい存在だ」と語ったことが綴られている。この言葉が本作を端的に表しているようだ。
- 渕上裕太『上野公園』
- 2023年10月20日 初版発行
著者:淵上裕太
価格 : 3,500円(税込)- サイズ:H242mm x W210mm
仕様:88ページ/ソフトカバー
デザイン:町口景
編集:菊田樹子
翻訳:ジョン・サイパル
発行:塩竈フォトフェスティバル
印刷:株式会社誠晃印刷
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。