山田省吾はVacuum Pressに参加し、不定期で刊行しているオムニバス『VACUUM』にも作品を提供している。本書はその『VACUUM』と同様の体裁をとっているが、モノクロでなく全編カラーで構成されている。
内容は街中のスナップ。場所は大阪を中心とした関西方面であろうか。マスクをした人々がいるところを見ると、ここ2、3年に撮影されたものも含まれているようだ。
印象的な一枚がある。狭い路上であろう道路に自動車が通っているのだろうか。まわりには人がひしめている。その自動車の窓にファインダーを覗きシャッターを押す写真家自身の姿が映り込んでいる。むろん意図的でなく、結果的に反射していたのであろう。車内の助手席に座る女性が不審な面持ちで撮影する者を見ている。だが当の写真家はそんな視線など意に介することなく無心にシャッターを押していることは、窓に映ったその姿から想像される。
そしてこの写真を見る第三者がいる。この写真を見る者は山田の視線を追体験すると同時に、撮影されたときの状況を俯瞰して見る。
自動車が路上を通過した瞬間のわずかな時間に、複数の視線が交錯する。もしかしたらこの撮影の模様をフレームから外れたところにいる誰かが見ていたかもしれない。一枚の写真に潜むいくつもの視線のことを考えたとき、写真という表象は錯綜する視線によって構成されていることに気付かされる。
- 山田省吾『何処彼処列記4』
- 価格:5,940円(税込)
- 判型:280 × 210 mm
- 頁数:260頁、掲載作品130点
- 製本:ソフトカバー
- 発行年:2023
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