プロフィールによると卯月梨沙は1988年生まれ。2018年から2023年まで写真表現中村教室に在籍し、小宮山桂氏に師事していた。「日々の中で出逢った違和感や心象風景に重なった景色と、自身の原体験や皮膚感覚を元に抽出した創造を混ぜ合わせて構成することで、現実と非現実、その間(あわい)を表現している」とある。
本作『不透明なけもの』を見ると、プロフィールで記述されていることに納得するであろう。本作は日本画家である女性を被写体にして、彼女を中心にした作品世界が展開している。被写体である画家に関することは作品集の中で説明がないので、その履歴やどのような絵を書いているのか、わからない。ただ、写真の中にいる画家は場に応じて、変幻自在に様々な表情や格好をしている。彼女自身がひとつの作品のようであり、パフォーマンス性が伝わってくる。
写真家がどのような経緯で日本画家を撮影するようになったのか、その経緯や関係性につても本書では触れられていない。情報はない分、見ているこちら側の想像力を求められ、掻き立てられる。
ここで展開するイメージの様相から例えば土方巽、麿赤児や大野一雄といった舞踏家であるとか、鈴木清順の映画『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』などを想起するかもしれない。たぶんそれは間違いではないだろう。だがこの作品の根底にあるのは、そうした日本の風土からもたらされた表現とはまた別のところに、本作の主題はあるのではないだろうか。むろん、それは見る側の解釈に求められてくる。
写真家がいうように「現実と非現実の間(あわい)」が表現されているのかもしれない。写真は目の前の事物を写すものだと信じられている。だが果たしてそうだろうか。私たちは本当に眼の前を現実を見ているのか? 『不透明なけもの』から、そう問い掛けられているような気がする。
- 卯月梨沙『不透明なけもの』
- 写真・制作:卯月梨沙
- モデル・題字:楢崎くるみ
- 印刷・製本:株式会社イニュニック
- 判型22×22cm/76P/写真69点 上製本/私家版/3800円+税
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