1970年代半ばから後半にかけて北島敬三が撮影したコザ(現在の沖縄市)の写真展が2022年、現地のスケートボード室内練習場SKATE CLUB ORIONで開催された。SKATE CLUB ORIONはかつてはAサインバー「CLUB ORION」という場所で、米兵や周囲に屯する日本人で溢れていたと想像する。
本書『CLUB ORION』はその展示風景を中心に、1979年の展覧会「写真特急便 東京」の展示風景と1975から79年に撮影されたコザの写真を交えた、過去と現在の時間がモンタージュされた変則的な写真集となっている。
撮影した当時、北島が経験した撮影行為に付帯する原罪感は、その後の活動に濃い影を落とし続け、2002年の展覧会に参加するまで、沖縄に足を踏み入れることはなかったという。
沖縄がアメリカ合衆国から日本に返還されたのは1972年のことだった。当時ベトナム戦争の末期にあり、戦況は熾烈を極め、アメリカ国内でも反戦運動と長期化する戦争に対する疲弊感が蔓延していた。沖縄はアメリカ軍の中継基地として機能し、ベトナム戦争の影響が濃厚に漂っていたであろう。本土からやってきた若き写真家は、沖縄を撮ることに懸命だったはずだ。だが沖縄で撮るという姿勢とは似て非なるものであったと気付いたのかもしれない。北島敬三の撮った沖縄は長らく公にされることはなかった。
それから約40年以上の月日が経過した。「CLUB ORION」の壁に掲げられたスクリーンに当時のコザの写真が投影され、二重の時間が刻印された写真から、「写真の帰る場所」をめぐる問いが反響しているようだ。時間が経過し、40年前の沖縄は歴史へと近づき、北島敬三が撮った沖縄はようやく語りはじめることができるようになった、と言えるのかもしれない。
- 北島敬三『CLUB ORION: Photo Express Tokyo-Koza』
- B5変型判/並製・スリーブケース入/80頁/和英併記
限定700部/エディションナンバー・サイン入
テキスト:倉石信乃「写真の帰る場所」
デザイン:纐纈友洋
発行年:2023年
発行:Kula Books
定価:4,200円+税
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