本書の撮影場所は韓国釜山である。釜山は朝鮮半島の南東のあたりに位置し、地理的にみると日本列島から近い。韓国ではソウルに次ぐ第2の都市として栄え、日本では福岡市と山口市が姉妹都市として提携を結んでいる。
日本との距離の近さもあり、1592年から97年にかけて文禄・慶長の役と言われる、いわゆる豊臣秀吉による朝鮮出兵の際には日本側の軍隊が釜山から朝鮮半島に上陸した。時代は遡り、1950年に勃発した朝鮮戦争の際はソウルが陥落したときに、都市機能を釜山に移して停戦する1953年まで臨時の首都となった。戦争の影響もあって、多くの人が流入した結果人口が増加し、現在のありようにまで発展した。
1996年、尾仲浩二が韓国・釜山を訪れた10日間に撮影されたもので本作はまとめられている。その年の『アサヒカメラ』10月号にモノクロ写真が掲載されたが、カラーポジでも撮影していた。
尾仲の写真を見ると常に視線はぶれることがない。日本国内を旅しながら撮影するものと、その姿勢は変わらない。ただ場所が違うだけだ。目の前にある世界に感応するその反射神経は、90年代当時すでに確立している。
尾仲がシャッターを押すとき、そこに歴史は必要なく、良い意味で世間がないのかもしれない。唯一無二の風景が展開し、見るものを惹きつけるノンシャランが本作でも堪能できる。
- 尾仲浩二『10 Days』
- 出版社:Gallery Negative
発行年:2023
仕様:A4変型、103ページ
価格:6,600円(税込)
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