大竹昭子はいまさら説明するまでもない著名な作家である。写真評論をはじめ小説、エッセイなどジャンルを縦横に活躍する才人として健筆を奮っている。『迷走写真館へようこそ』は、ギャラリー「ときの忘れもの」のHPで連載していたものをまとめたものだ。写真家の作品である1枚の写真を取り上げ、そこから独自の視点でもって発想されたことを、趣くままに書いている。その際、写真にはこれを撮影した写真家の名前は記されていない(巻末にまとめて紹介されている)。いわば写真は無名の1枚として提示されている。
写真家が撮影した写真を見るとき、見る側はその写真家の作家性や立場を無意識のうちに前提にしている。だが、撮影者の名前を外してただの一枚のイメージとなったとき、写真は前提をもたず、目の前に漂う根拠がみえない映像となる。そのとき人はどう解釈し、読み取るのか。大竹は写真から前提を外すことで、その写真を撮った写真家の背景や経歴を無にして、ただそこにあるものとして写真を読解していく。
本書を読むと、写真を解釈することの無限さを感じる。歴史を踏まえた評伝でもなければ、作品を中心に読みとく批評とは異なり、写真を見る豊かな想像力に圧倒される。短い散文の中でこれだけのイマジネーションが展開されるのは伊達ではなく、これまでの写真を見てきた経験や幅広い知識と学識に裏打ちされ、なおかつ豊かな感受性のたまものであろう。
一見誰もが書けそうな気がするが、そう簡単には書けない。大竹昭子という希有な作家の才能が堪能できる1冊となっている。
- 大竹昭子『迷走写真館へようこそ』
- 発行:赤々舎
- 発行月:2023年10月
- デザイン:榊原健祐
- 仕様:H188mm×W128mm、168ページ、ソフトカバー
【関連リンク】
http://www.akaaka.com/publishing/meisoushashin-kan.html
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