著者である小倉快子は2015年冬から2021年春まで、新潟市で本屋兼ギャラリー「BOOKS f3」を営業していた。本書は閉店を意識しだした2019年から残すようになった日記をはじめ、店を閉めるまでと閉めた後のことが綴られている。
故郷である新潟で「BOOKS f3」を始めた著者は、地方で店を経営すること、ここで自分が何をできるのかという葛藤と、それでも本と写真が好きな自分がいることで気持ちも場所も保ってきた。しかし2019年頃から閉業することを考え、そして2020年に入ると新型コロナウイルスによる休業が重なり、迷いの中で決断を下すことになった。
店を閉めてからしばらくして、「BOOKS f3」での日々を振り返った。2019年から書き始めた日記、その後に書いた散文、SNSのつぶやき、イベントや展示の記録が収録されている。そうした作業を経て〈くすぶっていた自分自身に折り合いがつき、「まごうことなき愛おしい日々だった」とようやく思えるようになりました。〉という心境にいたったという。
衒いのない文章は読んでいて心地良く、著者の気持ちが素直に表出されている。随所に掲載された写真もまた同様の感触が伝わってくる。なくなってしまった場所を振り返る作業は心理的にも負担であったと察するが、文章から仄かな希望を感じる。
本書を読むと「BOOKS f3」という場所が多くの人に愛されていた片鱗が感じられてくる。
- 小倉快子『私の愛おしい場所 BOOKS f3の日々』
- 発行年:2023年
- 判型:B6判、240ページ
- 価格:1,870円(税込)
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