2023年9月に同名タイトルの展示が東京麻布のPGIでも行われた。本書は同名の作品集となる。
森下は、「存在」や「関係性」を核となるテーマにしているという。事象を見つめ、シャッターを切り、暗室でプリントを制作、印画紙の上に二次元の視覚表現として立ち上がらせる、という写真行為を繰り返し、この行いを通して世界の原質に触れようとし、存在を証明することを希求し続けている。こうした概念の元で作品を作るという行為は、むしろ哲学者の姿勢に近い。
実際、本書のタイトル『存在するとは別の仕方で』はフランスの哲学者であるエマニュエル・レヴィナスの著作から引用されている。レヴィナスは1906年リトアニアに生まれた。ユダヤ系であるがロシア語で育てられた。家族とともに転々と移動し、ウクライナのハリコフで居住していたときにロシア革命とに遭遇する。のちにフランスに渡りストラスブール大学で学ぶ。このときフッサールから現象学を学び、ハイデガーの授業を聴講し、この2人から多大な影響を受ける。
一般にレヴィナスの思想の根底にあるのは倫理学があるといわれ、そこに自ずと善と悪の概念が生じる。『現代思想を読む事典』(今村仁司編、講談社新書)の「レヴィナスの思想」という項目に下記の記述がある。
悪は存在への固執に由来する。主体が自己の存在を肯定するために他者と関係する時、他者の他性は必然的に否定される。〈他〉は〈同〉によって承認される場合にのみ〈他〉でありうる。(略)レヴィナスにとって、存在の無意味は、正/不正以前に存在自体に由来する悪の開示である。こうして存在に固執する限り、他者への暴力、苦痛、悪から逃れることは出来ない。
ここにあるテクストを参考にして森下の写真を見ると、見る視線の先にある〈他〉という存在とは、圧倒的なまでに理解し得ない存在であり、その関係性によって両者は成立しているように思える。
『存在するとは別の仕方で』にある人もモノと見る私は、決して分かち合うことはない。だが〈他〉が存在することで主体はある。この作品集を見る私もまたその関係性の中にあることを意識させられる。
- 森下大輔『存在するとは別の仕方で』
- 発行:asterisk books
- 発行日:2023年8月29日
デザイン:庄司誠
翻訳:Robert Zetzsche
判型:280×223×9mm、96ページ、モノクロ48点、並製本・カバー
初版 300部
定価:3,800円
【関連リンク】
https://www.pgi.ac/exhibitions/8831
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