プロフィールによると、写真家、画家、美術家とあり、自分が「ここにいる」という一貫したメッセージを込めて創作活動を続け、「自己の中心から発せられる力を客観的な写真」に落とし込んでいるとある。自身を姿を見つめる手段として創作に写真も選んだようだ。
セルフポートレートで構成された本書だが、自分自身を作品の対象にすることは、写真以外でも見られる。例えば画家は自画像を描き、小説家は私を軸にして私小説を書いてきた。作者が私をテーマとするとき、そこにナルシシズムが前提にあるように思うかもしれないが、寧ろその反対であろう。自分を対象化することは自らの姿を他者のように見つめ、自分という存在を見出す作業となる。私小説も単純に自分の思いや感情を吐露しているわけでなく、〈私〉というペルソナを作り上げ、世界に対して〈私〉が対峙し、自身の思想を紡いでいく。
写真の場合、その姿は絵画よりも現実に近く、小説よりも客観的である。つまり〈私〉を主題とするとき、より自分と近い存在が目の前にある。だからこそ対象化するとき、距離感が必要となり、より他者として見つめることになる。〈私〉でありながら〈私〉とは異なる何者かが写真となっている。その事実を踏まえた上で、このイメージ上の〈私〉を素材にしてどう作品を練り上げていくか、そこにどのような主題を軸にするかで、セルフポートレートは様々な〈私〉を形成していく。
『I am here』もまたいくつもの〈私〉を見つめ、再構築された作品集となっている。
- SAKI OTSUKA写真集『I am here』
- 発行:リブロアルテ
- 判型:238×178mm、128ページ、布貼ハードカバー+プラスティック透明カバー
デザイン:Bureau Kayser- 価格:5,500円(税込)
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