『群』と書いて『むら』と読む。國領翔太は本山周平らが参加しているGRAF Publishersに参加している。GRAFの傾向として日本の風景を主題とする写真家が多いが、國領もまたその例に漏れない。『群 MURA』も日本各地の風景とそこにいる人を撮影しているが、おそらくこの作品は名品といえるかもしれない。
民俗学者の宮本常一は日本各地を巡り、これまでの民俗学者たちがそうしたように、そこに住む人たちから話を聞き、極力そのままの内容を文章に置き換えていった。先人である柳田国男や折口信夫らは見えないなにものかをテキストにして形象を与えたが、宮本が着目したのは、目に見えるものや生活道具や習慣であった。そのための道具としてカメラは宮本の方法には適していた。柳田はカメラを信じなかったのは、目に写るものが対象でなかったからであろう。宮本の撮影したフィルムの数は膨大なものであり、のちに『宮本常一 写真日記集成』(毎日新聞社刊)とまとめられた。ちなみに同書のデザインを手掛けたのは、先頃残念ながら亡くなられた鈴木一誌氏である。宮本の視点はごく自然に、興味ある対象に対して素直な反応でシャッターを押している。徹底して見る人であることが写真から伝わってくる。
『群 MURA』を見たとき、これは21世紀の宮本常一ではないかと感じた。無論、宮本のようにテキスト化はしていないが、写真の中にテキストがあるように伝わってくる。言葉のない言葉というか、すでにイメージそれ自体が雄弁に語っているように思われる。もしかしたら本書は宮本常一の仕事をすでに凌駕しているのではないか。だとすれば、宮本を敬愛する網野善彦、司馬遼太郎、水上勉、谷川健一らの仕事をも越えているのではないだろうか。本書の編集とデザインが写真から知性を引き出し、先人たちの仕事を越えるスケールを感じさせたる稀なる作品集といえよう。
- 國領翔太写真集『群-MURA-』
- 発行:GRAF Publishers
- 発行日:2023年8月29日
- 仕様:A4変型、上製本、写真59点、66ページ
- 発行人: 本山周平
編集: 大田通貴
ブックデザイン: 加藤勝也
価格:4,400円(税込)
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