2019年に刊行した『TOKYO 1985』以来、『Tokyo Summer 2020』『Everyday Tokyo 2021』と岡本正史は年1冊のペースで作品集を刊行している。最初の本はタイトルが示すとおり1985年の写真を中心にしているが、『Walks Tokyo 2022』含め2冊目以降は撮り下ろしの写真で編まれている。
奇しくも2020年はコロナ禍の始まりであり、2023年現在もまだ感染は続いている。扱いが5類に移行し、行動規制もなくなり、感染症がなくなったかのような印象を与えるが、実際にはウイルスはまだ漂っている。こうした状況において岡本が積極的に街をスナップすることは、自ずと時代の背景を記録することになる。
あとがきに2022年は入院を含め100日病院に通ったことを書いている。コロナの感染症ではないが、通院や介護施設に入っている母親の面倒などが続いていた。むろん街のスナップにそうした個人の事情は写らない。あるのは日常の光景とマスクをした人々であり、佇む街があるだけだ。
ページを捲るうちにスナップとは何か? という根源的な問い掛けが頭をもたげる。あるいは撮る行為を何故行うのか? 言葉のない写真は眼前にある人物、事物、背景によって構成されている。そこに撮る側の意志が介在する余地はない。いわばすべて他人事である。だがカメラのシャッターを押し、獲得されたイメージは撮った側によって恣意的に構成できる。とはいえ、それでも写ったものは撮る側の意志を越えて存在することに変わりはない。永遠にわかりあえない関係にある両者は、すれちがいながらも併存していく。
人生はままならない。自分の思惑を越えて何かがやってくることが日常だ。『Walks Tokyo 2022』にはそんな手におえない日々の向こうにある世界が記録されている。
- 岡本正史『Walks Tokyo 2022』
- 発行:蒼穹舎
- 発行日:2023年8月15日
- 部数:300部
- 仕様:A4変型、上製本、モノクロ64ページ、作品43点
- 価格:3,200円(税別)
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。