2016年に発行された『father』(青幻舎)では、失踪を繰り返す父親を被写体にした。エッセイ『いなくなっていない父』では、自身のことを軸にして父との関係性や撮影するまでの経緯が述べられ、あの独特な雰囲気を醸す父親のことが、少し理解できたような気がした。
本作『長い間』の被写体は、金川静枝さんである。作者の叔母にあたる。叔母もまた失踪して行方不明だったらしい。そのことは巻末にあるテキストに記載してある。作者の祖母から連絡が入り、静枝さんが見つかったので会いに行ってほしいと頼まれる。この時点で両親は離婚しており、母親に連絡するのも憚れたのか、孫である作者に連絡があった。とはいえ、作者も叔母である静枝さんとはそれほど面識はない。だが見つかったと連絡があった以上会わないわけにもいかず、作者は静枝さんが入院している病院へ行くことにした。
このきっかけから本作の写真は始まる。内容は一貫して静枝さんのポートレートである。機材のデータがないのでわからないが、父親と同様に6×7で撮影しているのだろうか。印刷だがその質感は中判に近いものを感じさせる。
並びは時系列であろう。巻末のテキストは2010年6月から始まり2020年1月までである。10年の軌跡といえる。徹底して見る者と見られる者の構図で展開し、互いに正面から向き合っている。静枝さんの視線はカメラを持つ作者の方を見つめ、その姿が揺るぎない。それは金川晋吾自身も同様であろう。
ページを捲るうちに肉体が徐々に衰えているのがわかる。肉が落ち、皮膚が下がり、顔の輪郭から骨の形状が見えてくる。その姿を見つめることは酷なことではある。しかし、人は生きている以上、突発的なことがない限り、いずれこの過程を辿る。そう考えると対峙しあう二人の力に圧倒されてしまうようだった。生きる人間のエネルギー量とは、はかり知れないものだ。
- 金川晋吾『長い間』
- 発行:ナナルイ
- 発行年:2023年
- 仕様:220×284mm、136ページ、ハードカバー
- 価格:4,950円(税込)
- https://nanarui.theshop.jp/items/71655032
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