top 本と展示写真集紹介千賀健史『上界のスティグマ』

千賀健史『上界のスティグマ』

2023/08/20
髙橋義隆

『上界のスティグマ』は2023年6月に同名の展示を行っている。以下に展示のプレスリリースから引用する。
 

千賀は、写真という媒体を通して、日常の出来事と社会の関係性を問うてきた作家であり、本展示もそのプロジェクトのうちのひとつとして位置付けられる。
 
「現実とはなんだろう?」という問いからはじまる本展では、私たちが社会のなかで見落としているもの/見ようとしていないものを抽き出す。そうした社会の「スティグマ」が、日常の裂け目において顕になる契機を、千賀は作品に持ち込む。

 

同名の冊子だが、写真は掲載されていない。テキスト本であり、短編小説とも長めのエッセイともいえる内容である。詳しくは書かないが、語り手の住まいであるマンションで上の階に住む女性のエピソードが綴られている。その中で上から漏水し、部屋が水浸しになる描写がある。
 
水は人間が生きる上で不可欠だが、生活を脅かす存在になったとき、これほど厄介なものはない。火はそれこそ水で消すことはできるが、水を消せる気体はない。一度侵食したら、流れるか、拭き取るか、乾いて蒸発するまであり続ける。そして徐々に腐っていけば、黴や菌を繁殖させ、人間の健康に害を与える。
 
部屋が水に侵されていく描写は、リアリティがあり、読みながら嫌な感じがした。だが作者はその事実に対応しながらも、冷静な態度を崩さず、見つめている。その姿勢に写真家としての姿勢が現れているように感じた。
 
「スティグマ」とは、恥辱、汚名、負の印と訳される。ここで描かれるスティグマとは何か、読む人によって解釈は異なるであろう。
 
ちなみに語り手の住む部屋は都内の3LDKで、家賃は7万円という。こんな格安物件があれば一度内見してみたい。
 
【関連リンク】
https://chigakenji.com

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