サブタイトルにある年代を経験したことがある人ならば、ある時期、本書に掲載された写真を見た瞬間、当時の光景を思い出すのではないだろうか。
1990年代後半、音楽を聴くメディアは圧倒的にCDだった。たしか売上げのピークは1997年だったと何かの記事で見た記憶がある。たしかにそうだったと肌感覚で覚えている。現在のようにインターネットはそれほど普及しておらず、SpotifyやApple Musicというようなサブスクで聴くなんて手段はなかった。レコードでプレスされる作品も少なく、音楽の最先端はCDに収められていた。渋谷と新宿にあるタワーレコードに行き、どんな新譜があるかをチェックし、試聴機で目当ての新作や、注目のアーティストの音源をチェックし、気に入ったら財布の中身をチェックしてCDを買う、なんてことが当たり前のようにあった。
タワーレコードへ行けば、自然と広告が目に入る。日本のミュージシャンを中心に被写体にしたポスターは、毎回遊び心があり、それが店舗へ行く楽しみでもあった。個々のミュージシャンの個性を活かし、様々なシチュエーションでもって彼ら/彼女らの魅力を引き出す写真を目の辺りにしていた。「NO MUSIC, NO LIFE」。このコピーは、音楽にハマっていた時代の人にとって、誰にも響く言葉だ。この一連の写真を撮っていたのが平間至だったことを知るのは、それはしばらく経ってからだった。
『Thank you for the photographs! 1990-2022』はミュージシャンのポートレート以外にも、1990年代初頭の「STILL MOVIE」、舞踏家・田中珉を撮影したシリーズ、そして平間写真館TOKYOで撮影した家族写真まで、平間至の集大成となっている。それでもやはり、ミュージシャンを撮影した一連のページを見ると、90年代後半から2000年代初頭にかけての新宿や渋谷の風景が浮かんでくる。むろん、これはあくまで筆者個人の感想だが、写真と音楽がそうした追憶となることは、誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。
- 平間至『Thank you for the photographs! 1990-2022』
- 発売日:2022年4月12日
- 出版社:トゥーヴァージンズ
- 仕様:B5変形・並製・128ページ
- 本体価格:2000円(税別)
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