表紙にある写真が気になった。路上をランニングしているであろう女性の後ろ姿だが、同じ画面の左右にいる。さらに表紙を広げると背を跨いで表4まで一枚絵になっている。そして同じ女性が今度は小さくその同じ後ろ姿がある。
これは合成だろうか? 実は合成ではない。この写真の経緯について横木が自身のnoteで述べている。
2012年8月 アイランド南西部の狭い田舎道を、激走する木材満載の大型トラック。その写真を撮っている時に突然女性がジョギングしているところに遭遇。レンズは200mmf2.8。走る車から撮影する時の視線は日常より遠く、200mmがちょうどだからだ。ファーカスモードはAIサーボ、通常の連写モード。カメラはEOSMarkⅢ。
この写真は、連写した写真のなかから選んだ3枚だ。その3枚をパノラマ写真のようにステッチしている。はめ込み合成ではない。望遠レンズで撮ったので歪みもなく、偶然3枚ならべると一枚の写真になった。それをステッチしている。
女性の左手は時計を見ているのだろう止まっている。髪の毛の翻り方は微妙に違うカットであることがわかる。そして足は動いていることが分かる。多分1秒前後の瞬間の連続だ。
あくまでそれぞれ移動している偶然の産物だ。画像の合成ではなく、時間の合成写真ということになる。
引用元:https://note.com/alao_yokogi/n/nabf8d6681164
カメラの技術と偶然の結果によって作られた写真ということになるが、ここが写真たる由縁であろう。カメラ、レンズ、シャッターの駆動、そして状況と被写体と、すべての条件が重なって撮られた。機械じかけのイメージとでも言えようか。ここに写真の面白さと不思議さが混在している。
「写真は時間」と横木は上記noteで書いている。写真はどの場所で撮るかという軸もあるが、時間を写すという役割も担っている。同時にそれは時代とも呼べる。『Catch it if you can 追い越すことのできない時間』はタイトルが示す通り、時間をテーマとしており、どことなく哲学的な省察をうながしてくる1冊となっている。
- 横木安良夫『Catch it if you can 追い越すことのできない時間』
- 仕様:A5(149x210mm)、厚さ14mm、写真121点、128ページ
- 出版社:FOTOCAMP CRP FOTO
- 価格:3,300円(税込)
- https://alaoy351a.myportfolio.com
【関連リンク】
https://note.com/alao_yokogi
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。