『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』(平凡社刊)は2023年6月16日から東京都写真美術館で開催されている同名展示のカタログである。同美術館では過去に木村伊兵衛とブレッソン、植田正治とラルティーグと日本人とフランス人の組み合わせで企画展示を行ってきたが、今回はその第3弾となる。
現在も活躍する本橋だが、生前のドアノーと会うことは叶わなかった。1991年、会う約束をしたが飛行機の到着が遅れて、すれ違ってしまったという。面会を予定していたホテルのカウンターに本橋宛にドアノーが自分の写真集をメモと一緒に預けていったというエピソードが本書の解説に記されている。そのウィットに富んだメモについては、読んでいただきたい。
本書は5つの章に分けて展開している。二人の作品を交互に紹介しているが、見ていて気付いたのは両者の視点が非常に似ていることだった。むろん場所と時期は異なり、炭鉱やサーカスといった同じような対象もあったりするが、対象との距離感とそこに介在するある種の感情のようなものが共通しているように思われた。
炭鉱労働者をとりあげると、両者とも1960年代に撮影している。同時にこの時代のエネルギーを支える根幹として炭鉱は世界共通だったことがわかる。時期的にも産業として末期に近く、働いている人々もそれはわかっていただろう。炭鉱事故による悲劇もあり、命がけの労働現場でもあった。だがそんな状況下でも必死に生きて、ときには笑顔を向け、ひとときの休息を楽しむ瞬間があった。本橋もドアノーもそんな彼らの表情にシャッターを切っている。
ふたりの写真を見て、それぞれの作品を認識していたつもりだったが、こうして並列して見ると新たな発見と気付きがあり、写真を読解することの奥深さを感じた。
- 『本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語』
- 発行:2023年6月
判型・ページ数:B5・244ページ
価格:2,860円(税込)
【関連リンク】
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4534.html
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