小林健太は現在のヴィジュアル表現において、もっとも刺激的な作品を提供してくれる。『THE PAST EXISTS』は写真という範疇を超えた作品集として、見る側の視覚領野を激しく揺さぶってくる。
1992年生まれの小林にとって制作するものをカテゴライズすることに意味はないようだ。デジタルで撮影された素材は、Photoshopで加工し、画像を歪曲していく。ハレーションを起こしたような光や、ブレやドット画像の粗さなど、ノイズ的な感触は見ていくうちに心地良さすらおぼえる。
1960年代後半に森山大道や中平卓馬が『PROVOKE』でその作品を発表したとき、粗粒子と視点の定まらないぶれたイメージは、旧来の価値感をもつ人から大きな反発を招いた。しかし、彼らの実践した行為はその後も大きな影響を与え、いまでは革新的な登場だったと評価されている。
『THE PAST EXISTS』を見たとき、『PROVOKE』の登場とはこういう印象だったのではないかと想像した。しかし『THE PAST EXISTS』がある2023年時点において、『PROVOKE』はすでに過去のものであり、同じ地平にいない。言葉や思想など超越した、圧倒的なまでの感覚値をもった人物がすでにいることに我々は驚嘆すべきだ。
『THE PAST EXISTS』の感覚値はむしろ音楽に近い。例えば80年代ならマイ・ブラディ・ヴァレンタイン、90年代ならエイフェックス・ツインが登場し、その音を聴いたときのショックに似た感じが、本作には溢れているような気がした。
- 小林健太『THE PAST EXISTS』
- 判型:297mm×210mm
仕様:Laser Print、ソフトカバー、92ページ
発行:2022年- 価格:3,850円(税込)
【関連リンク】
https://newfavebooks.com/thepastexists-kentacobayashi/
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