瀧本幹也はいま日本で仕事量の多い写真家であろう。その名は知らない人でも、彼の手掛けた作品を目にした人は、ほぼ全国民と言っても過言ではない。『写真前夜』(玄光社刊)は瀧本がこれまでを振り返ったエッセイ集である。とはいえ、手掛けた仕事を紹介しつつ展開されているため、ビジュアル面でも楽しめる。
10歳の頃から写真で仕事をすることを決めていたという。16歳で高校を中退し、紆余曲折を経て藤井保の助手となるまでの経緯、中島英樹、服部一成との出会いなど綴られ、1990年代から2000年代におけるメディア史の一断片としても読める。
それにしても手掛けた仕事を見るにつけ、その規模の大きさ、仕事量の多さに感歎させられる。ポテンシャルの高さが伺える。そして文章がうまい。レベルの高い作品を作る人の共通していえることは、文章力が優れていることだ。瀧本もその例に漏れない。写真に対する独自の哲学をもっているからであろうが、決して理屈っぽくない。平易な文章でありながら、高い思想性が随所にあらわれている。
紹介されているこれまでの広告で手掛けた写真を見ると、もちろん技術もそうだが、小手先だけではない何かがこのイメージを誕生させているのではないかと想像していたが、その根底にはイメージを作りあげるまでに、幾度も思考を重ねているからであろう。そうした思考の厚みが高い完成度をともなって我々の前に登場している。
いま天才といえる人は少ないが、瀧本幹也はその範疇に入る人物だ。そして天才は凡人の想像を超える努力と研鑽を重ねている。『写真前夜』を読んで、「俺って本当に取り柄のない人間だな」とわかってはいたが、改めて痛感した次第だ。この本を読んで打ちのめされる若い写真家が出てくることが、ひとつの希望としておきたい。
- 瀧本幹也『写真前夜』
- 発売:2023年3月30日
仕様:A5判・224ページ
価格:本体2,500円+税
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