キヤノンが主催する公募型の写真賞である「写真新世紀」が2021年で開始から30年を迎え、同時に開催が終了となった。その足跡をたどる1冊である。
歴代の最優秀賞、優秀賞のリスト、受賞者のインタビュー、コメント、審査を務めてきた写真家、評論家らのエッセイなどが、当時の模様を記録した図版とともに収録されている。もちろん受賞者の作品も掲載され、アーカイブとして充実な内容になっている。
開始した1991年から順に見ていくと、この30年における写真表現の変遷と技術の変化の一端が見えてくるようだ。始まった当初はフィルムカメラが当たり前であり、印刷で見る限りでもその質感が伝わってくる。2000年代以降になるとデジタルが普及し、質感も含め作品の主題、提示方法にも工夫が凝らされていることが確認できる。
新人賞の登竜門として「写真新世紀」は存在していたと、リアルタイムで見てきた人はそう認識しているだろう。リクルートが主催していた「ひとつぼ展」も終わり、企業が主催していた賞が終焉を迎えたことは、否が応でもある役割が終わったという印象は拭えない。それは同時に、バブル経済崩壊後の30年において、日本経済の主流に位置する企業の変遷とも無縁ではないだろう。
経済が文化を支える面があるのは事実だ。その文化である写真賞が終わり、企業と表現がどう交差し展開されていくのか。そんな課題を「写真新世紀」は残していったような気がした。
本書の最後に事務局担当者のあとがきが掲載されている。文面から複雑な感情が垣間見え、組織を構成するのはひとりの人間であり、そこには個々の想いがあって成り立っていることに改めて気付かされた。
- 『写真新世紀 30年の軌跡展』公式図録
- サイズ:W215×H285mm
仕様:295ページ、雁垂れ製本
価格:3,300円(税込)
【関連リンク】
https://global.canon/ja/newcosmos/news/topics/zuroku/
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