表紙カバーにタイトルに並んで〈Kobayashi Norio〉と記載されている。瞬間、それが小林のりおだと知ったとき、軽い衝撃を覚えた。小林のりおの作品が出版されるなんて、何十年ぶりだろか。単著としては1992年の『FIRST FLIGHT』以来だ。31年ぶりとなる。これは事件といってもいい。
タイトルを訳すと「塊の夢」とでもなろうか。雪を素材にして各地で撮影したもので編集されている。あとがきの中で小林は還暦を過ぎて、「雪の有りように心惹かれる」ようになったと書いている。秋田出身の小林にとって雪は特別な存在ではなかったが、「スーと跡形もなく消えてゆく雪の潔さに惹かれ」、雪を対象に撮るようになった。
雪を求めての撮影地は秋田だけでなく、長野、山梨、群馬、岩手と雪が残りやすい地域を選んでいる。思えばすべての雪はいずれ溶けて無くなる。無垢のような白い雪が地上に降り積もり、徐々に俗世に散在する塵芥に穢れ、汚れていく。汚濁を吸い込みながら水となって消えていく光景を想像すると、雪の白さはほんの一瞬の時間に過ぎないようだ。まさに儚い夢の時間といえよう。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。」はあまりにも有名な川端康成『雪国』の書き出しだが、そのあとに「夜の底が白くなった。」と続く。『Cluster of Dreams』にある雪は、夜の底にあった白い雪のその後が描かれているように感じられた。
本書の巻末に笠間悠貴の「残雪と空白」という論考が掲載されている。冒頭、写真における白について書かれていて興味深かった。この論考も含め必読の1冊である。
- 小林のりお『Cluster of Dreams』
- 判型・装丁・ページ数:B4判変型/上製/112頁
発行:2023年2月1日- 価格:4,400円(税込)
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