『物草拾遺』(Akio Nagasawa Publishing刊)は須田一政の新刊だが、須田は2019年に亡くなっている。純粋な新作ではなく、過去の作品を再編集した内容となっている。
撮影データを見ると、1970年代半ばから1980年代前半に撮影されたもので、フォーマットは6×6である。ここに収められた写真を撮影した頃は、1976年「風姿花伝」等により日本写真協会新人賞を受賞している。「風姿花伝」に代表されるように須田といえば6×6フォーマットが連想され、そこに写されたイメージも須田の質感としかいいようのない、この世から遊離したような写真が展開している。
須田の写真を見ていると、白昼の闇という言葉が想起される。日中、晴天の中、ありきたりな日常の光景であるはずなのに、何か違和感を覚える。間違いなくここは見慣れた場所であり、いつも歩いている道だ。それなのに目の前の現実とここにいる自分の間に大きな溝が生じ、世界と自己に大きな断絶があると気付かされる。光の下に照らされた公園の遊具も街を歩く人もたしかな輪郭をもってそこに在る。猫も魚も間違いなく認識している。頭では理解している。だが、何かが違う。見えるのにもののそこかしこが剥落していく感覚をおぼえる。知覚が追いついていないのだろうか。白昼の光は、ありのままを現実を現実から遠ざけていくようだ。
本書のあとがきに「私は物自体にも一種の霊力があるような気がしてならない」と述べ、「写真でそうしたモノを表現したとき、実在の内側か奧の片隅に何か、そういうものがあって、それが見る人に何かを訴えるのではないかと思う」と続けている。須田は写真行為を通してアニミズムの精神をもって、見えないなにかを伝えようとしたのかもしれない。須田にはシャーマンのような気質が備わっていたのであろう。そして、多くの優れた写真家はその例に漏れない。
- 須田一政『物草拾遺』
- 判型:207×216mm
- 頁数:84頁
- 製本:ハードカバー、クロス装丁
- 発行年:2023年4月
- 出版社:Akio Nagasawa Publishing
- 価格:8,800円(税込)
【関連リンク】
https://www.akionagasawa.com/jp/shop/books/akionagasawa/monogusa-shui/
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