top 本と展示写真集紹介山崎茂『Weekend』

山崎茂『Weekend』

2023/04/30
髙橋義隆

山崎茂の『Weekend』(蒼穹舎刊)はタイトルは示すように、週末に東京都内や横浜の街をスナップした写真で構成されている。2部で構成され、前半は1974年から1977年にかけて、後半は2015年から2020年にかけて撮影されたものである。ちなみに作者は1951年生まれとある。
 
1974年から77年の時代背景は高度経済成長の只中だ。学生たちの抵抗運動は徐々に勢いをなくし、その反動であろうシラケという言葉が流行っていた。豊かになりつつある世間の人々の表情もどことなく朗らかで、顔付きは純朴だ。
 
そして約40年後の2015年から2020年の写真を見たとき、作者の姿勢が一貫していることに気付く。80年代から90年代にかけては写真を撮っていなかったのか事情はわからないが、視点の軸がぶれていない。そして、そこにいる人の佇まいや表情もさほど変わらないことに若干の驚きを覚える。ただ世相に関していえば70年代に比べ、2010年代の方が希望は先細りの世の中だと個人的には思うが。
 
日曜や休日に写真を撮るという行動を考えたとき、作者はアマチュアの人であろうか。詳しい経歴がないのでわからないが、現在の写真表現のあり方を俯瞰すると、現代美術の方法を応用した作品か、写真原理的なスナップという二極にわかれているような印象がある。そのせいかどうかわからないが、アマチュアと作家性のある写真家の境界も曖昧になりつつあるような気がする。森山大道は写真におけるアマチュアリズムの重要性を度々述べており、植田正治は自らをアマチュアであると規程していた。だが二人の作品は作家のそれとして認識されている。
 
『Weekend』の作者がご自身をどの立ち位置にいると自覚しているか不明だが、作品を見る限りにおいては、スナップという写真特有の表現を純粋に極めた作家であると感じた。それは時代の表層を見逃さない視線がどの写真にも内包されているからだ。

 

  • 『やとのじゃぬけ』
    著者:山崎茂
    発行:蒼穹舎
    定価:4,400円(税込)
    発売日:2023年4月4日
    350部 B5変型 上製本
    モノクロ120ページ 作品111点
    http://www.sokyusha.com/detail/pg4820404.html

 

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