田中昭史の『秩父風景』(冬青社刊)は「風景」「秩父」「闇の伝説 秩父夜祭1976/77」の3部構成になっている。作者の田中は小学4年生までこの地に過ごし、父親の仕事の関係で名古屋へ引っ越す。成人してからカメラを手に度々通い、撮影を続けてきたという。その回数は150回を越すと述回している。
本作の中で個人的に目を惹いたのは、「闇の伝説 秩父夜祭1976/77」の写真であった。写真学校の同級生とともに撮影し、1978年に展覧会を開いた。本書ではそのとき構成された内容をそのまま再現しているという。
35mmであろうモノクロフィルムで撮影された夜祭りではストロボを使用している。強烈な光でもって照らされた人や対象物が、闇夜の中に突然現れるイメージは、祭りの根底にある荒々しい暴力性を晒しているようだ。作者が20年代後半の頃に撮影した当時の写真は、若さゆえの勢いも感じられた。前半の写真の落ち着きぶりと比較したとき、よりそれが際立ち興味深い。年輪を重ねたという意味では作者も時代も同じかもしれない。
明治16年にいわゆる秩父事件といわれる出来事があった。自由民権運動の最中に起きた農民たちの暴動は、文明開化をめざす当時の時代にあって、ある種の衝撃を与えた。人間はそう簡単に理性だけで納得できるわけでない。直接行動でもって意志を伝えることは今も求められている。秩父という場所でそんな暴動が起きたことを考えたとき、この地には理性を越えた剥き出しの自然がここに住む人に影響を及ぼしたのかもしれない、と想像する。
夜祭りの写真を見ながら、その考えはあながち間違いではないかもしれないと思った。いまは大人しく見えるが、根底には凶暴な自然性を抱えていることは間違いないであろう。田中の写真はそんな秩父の姿をさりげなく開示しているような気がする。
- 『秩父風景』
- 著者:田中昭史
- 発行:冬青社
- 発行日:2023年4月
- 定価:4,200円(税別)
ハードカバー モノクロ写真115点 248mm × 238mm
http://www.tosei-sha.jp/TOSEI-NEW-HP/html/PUBLICATIONS/j_newbooks.html
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