top 本と展示写真集紹介渡部さとる『撮る力 見る力』

渡部さとる『撮る力 見る力』

2023/04/09
髙橋義隆

渡部さとるは『じゃない写真』(梓出版刊)で、現代アートとしての写真表現のありかたを考察した内容が話題を呼び、またYouTubeチャンネル「2B Channel」で写真集を紹介し、写真家として写真表現の現在を案内している。
 
『撮る力 見る力』(HOBBY JAPAN刊)は、渡部が質問者との問答形式で進行する構成になっている。彼のキャリアを踏まえつつ写真を軸に話題豊富に語られているが、対話の形をとっているためかトークショーを聞いているようで読みやすい。
 
1961年生まれの渡部が初めてカメラを手にしたのが高校入学のときと述べているので、1976年頃だろう。その後日本大学芸術学部写真学科に入学。卒業後は日刊スポーツに入社して3年後にフリーランスとなる。バブル経済の頂点と凋落、インターネットの誕生と取り巻くメディア環境の変化、リーマンショック、東日本大震災、SNSの普及、コロナ禍に至る現在まで、渡部は写真とともに生きてきた。
 
カメラもフィルムからデジタルに切り替わり、雑誌媒体が衰退し、InstagramやTikTokといったSNSメディアの普及により、イメージを発信する場がプラットフォームと呼ばれるようになった。一方で写真は作品として現代アートの範疇で認知・評価されるようになり、美術館においてインスタレーション的な手法で展示されることもいまでは珍しくない。この事実は写真という手段の可塑性を示しているとも言える。
 
本書を読むと変化していく時代を背景にして、渡部が柔軟な姿勢で写真と取り組んできたことが伝わってくる。と同時に、20世紀後半から現在にかけて写真を中心に時代の変遷を見ると、その変容の大きさに気付かされる。
 
平易な語り口のためつい読み進めてしまえるのが本書の魅力だが、したたかに時代を生き抜けてきた渡部の経験がその語りに影響しているのかもしれない。そしてなにより、旺盛な好奇心が原動力となっているような気がする。彼の気持ちの底には、初めてカメラを手にしたときの興奮がさめずに、熱を帯びたまま時代と向き合っているのであろう。

 

  • 『撮る力 見る力』
  • 著者:渡部さとる
  • 発行:ホビージャパン
  • 定価:2,640円(税込)
  • 発売日:2023年2月28日
  • ページ数:288ページ
    ソフトカバー
  • http://hobbyjapan.co.jp/books/book/b619000.html

 

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