『深瀬昌久 1961-1991レトロスペクティブ』(赤々舎刊)は、東京都写真美術館において2023年3月3日から6月4日まで開催している同名展覧会の図録となる。今回の展示は深瀬昌久アーカイヴスのトモ・コスガ氏の全面協力の下、写真美術館では初めての大規模個展となる。
以前、赤々舎からはやはりコスガ氏が携わった『MASAHISA FUKASE』という集大成的な大部の著作を刊行しているが、今回は展覧会の図録ということもあり、年譜や解説など資料的な面も担った内容となっている。
掲載作品は発表された順に構成され、「遊戯」「洋子」「烏(鴉)」「サスケ」「家族」「歩く目」「私景」「ブクブク」の各作品から選ばれている。これらの多くは写真集としてまとめられた形で発表されたが、現在入手が困難なものもある。
そのタイトルの下に選ばれた写真を見ると、深瀬自身の中で確固たるイメージがあり、タイトルに示された言葉によって作品世界が形成されていることに気付く。オリジナルの写真集を改めて見返すと、その認識がより強く感じられるため、図録という形式だと物足りなさは否めないが、その一端を知ることをできるのはありがたい。
深瀬が亡くなったのは2012年であり、すでに11年となる。個人の生活を主題として作られた写真だが、親しみやすいとはいえない。狂気を孕みつつも遊び心を忘れていないが、万人受けする作品とは言い難い。だが、今もこうして振り返られるということは、揺るぎないイメージの力があり、惹き付ける魅力があるという証拠である。これを機会に深瀬昌久という他に類のない写真家の存在がより知られることになればと、個人的には思う。
- 『深瀬昌久 1961-1991レトロスペクティブ』
- 発行:赤々舎
- 価格:3,300円(税込)
- 判型:H220mm × W148mm
216ページ・ハードカバー- http://www.akaaka.com/publishing/MFukase-Retrospective.html
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