東京四谷のギャラリーヨクトで青木渡「都邑水景」写真展が開催

長い間、建築の設計に携わってきたせいだろうか、人間が造ったものに100%はないと思っている。建築 にしろ土木構築物にしろ人間が設定した基準値に基づいて設計が行われる。しかし自然の脅威が人間の想像 の範囲に収まるはずはなく、設定された基準値を超えた自然の力には無力なのだ。
 
昨今、自分が子供の頃より世界中で天災による災害のニュースが増えたような気がする。日本でも30年以 内に起こるであろう南海トラフ地震、温暖化による水害の危険性が叫ばれていることもあり、すでにほとん どの人がそれらの脅威が及ぶと都市は極めて壊れやすい状況にあると気付いている。  　
 
私は日頃からこの壊れやすい都市の輪郭を遠目から客観的に見つめて、写真表現することができないかと 模索していた。地球上には都市を構成する建築物などの人工物と逆に物質としての本質を変えることがない 水が存在するので、その水と都市を相対的に見ることでその予想と不安が入り混じった感情が浮き彫りにな り、いくらか今ある危機に思いを巡らすことができるのではないかと発想した。  
　
東京都内の水面を探して撮影を始めた。75箇所の撮影が終わっ段階で全体を見直し、よりコンセプトが伝 わりそうな写真を選ぶと隅田川の周辺の写真が多いことに気付いた。そして、隅田川周辺に絞り写真をセレ クトした。写真には、大小の積み木を並べたかのような建築物と将来起こるであろう危機に対する不安を想 像させる朧げな影が写っていた。「私たちが今一度認識しなけらばならないのは、ここに写っている光景が 永遠に続くものではなく、あくまでも瞬間的なのもの」だと写真を見た人に感じてもらいたいと思い写真展 を計画した。
 

■作家ステートメント
「都邑水景」
自然にあがない破壊と萌芽を繰り返す都市に危うさと不安を覚える。自然に寄り添っているだろうか。ある日突然訪れる危機に対して、代償を払う覚悟はできているだろうか。疑いを払拭できない。昨今の温暖化による気候変動、30年以内に起こると言われる大地震など、明日起こるかもしれないそこにある危機がその疑いを後押しする。
 
この写真は東京の中心部を貫く隅田川の護岸の光景だ。地球を覆う水はほぼ永遠に本質を変えることがない。永遠性を有する水の向こうに、人の都合で形成された都市を見つめる。自然の時間軸に何ら障害をきたさない水と、大いに抵抗の痕跡が見え隠れする都市との相対的な光景に意味を感じる。
 
水面に映る都市の影は驚くほど朧げだった。それは何を暗示しているのか。自分が薄々抱いていた不安が浮き上がり、影として映像になったとしか思えない。壊れやすい都市を黙認してきた後ろめたさを強く感じる。何かの外的要因によりほんの数時間になくなってしまうかもしれない光景。都市という虚像が写し出すその影を今一度見つめ直す。更に不安に陥るのか、気を取り直して未来を向くことができたのか。 

 
■展示概要

青木 渡「都邑水景」
会期：2023年5月2日（火）～5月14日（日）  
時間：13:00～19:00（最終日17:00）
休廊日：月曜日
会場：ギャラリーヨクト
所在地：〒160-0004 東京都新宿区四谷4-10 ユニヴェールビル102  　　　
最寄駅：東京都メトロ丸の内線「四谷三丁目」駅2番出口から徒歩5分
Tel:03-6380-1666 
 

【写真家プロフィール】
青木 渡 （あおき・わたる）
1959年札幌市生まれ。大学卒業後住宅メーカーで設計に携わる。在職中、写真と仕事の両立を試みるが断念。2019年退社。2021年、日本写真芸術専門学校卒業。現在、環境・都市・建築に関する写真表現を模索しながら創作活動を行なっている。
・写真展  　
2022年「後戻りできない川」ギャラリーヨクト

【関連リンク】
http://yocto102.starfree.jp

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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