top 本と展示写真集紹介広川泰士『旅のそのまま』(DEAR FILM PROJECT)

広川泰士『旅のそのまま』(DEAR FILM PROJECT)

2023/03/09

広川泰士の『旅のそのまま』は、1987年に刊行された写真集『sonomama sonomama』(流行通信)のスピンオフ的な位置付けにあるzineである。
 
『sonomama sonomama』は80年代半ば、DCブランドの服を携えて地方へ巡り、現地の人にその服を着てもらって撮影するというコンセプトで制作された。当時、コムデ・ギャルソンやヨウジ・ヤマモトといったハイブランドがヨーロッパのコレクションでも紹介されるようになり、日本のファッションが注目されはじめていた。
 
余談だが、DCブランドが話題だった当時、吉本隆明がモデルになってコムデ・ギャルソンの服を着て雑誌に掲載され、それを見た埴谷雄高が批判し、ふたりの経緯を知った大岡昇平が「コムデ・ギャルソンって何だ?」となり、青山の店舗まで行ったというエピソードがあった。
 
ファッション写真も手掛けてきた広川はこうしたブランドものの服を持って、過剰な情報に溢れた東京を離れて、地方でこれらの服を現地の人に着てもらい、その場で派生する違和感とも遊離感ともいえるような不思議な表出をカメラに収めてきた。
 
『旅のそのまま』は撮影時のコンタクトシートで構成されている。そのためアウトカットを含めて確認できるので、選ばれたカットとの違いが確認でき、興味深い。また、目的とは関係のない風景や途中で知り合った人なども撮影されており、関心が向けばシャッターを押すという姿勢も垣間見えて面白い。
 
広川の作品集はどれも完成度が高く、隙を与える余地がない印象があるが、今回のzineはいわばアウトテイク集とも言えるような、肩の力が抜けた作品集になっている。

 

  • TOKYO CULTUART by BEAMS 
  • DEAR FILM PROJECT  広川泰士『旅のそのまま』
  • 出版社:DEAR FILM PROJECT
  • 刊行年:2022年
  • 価格:1,980円(税込)
  • 210×148mm・32ページ・ミシン綴じ・300部限定 
  • https://www.beams.co.jp/brand/902019/

 

【DEAR FILM PROJECT】
フィルム写真をアップサイクルする取り組みを目的とする。紙媒体の隆盛期(1950~90年代)に多くの写真家が豊かな感性と視点でシャッターを切ってきた当時の写真を掘り起こし、匂い立つ情感を大切にしてオブジェとも言える紙のメディアを制作する。

 

【プロフィール】

広川泰士(ひろかわ・たいし)
1950年、神奈川県逗子市生まれ。1970年代よりフォトグラファーとして活動を始め、以降、ファッションや広告などの分野で活躍。一方、悠久の時間をテーマに、無限の宇宙の広がり、地球の風景や自然を映し出した作品や、環境と人間の存在を問うスケール感のある数々の作品を発表する。世界各都市での個展、美術展への招待、出演多数。作品集に『sonomama sonomama』『STILL CRAZY』『TIME SCAPES―無限旋律』、『BABEL』など。講談社出版文化賞、ニューヨークADC賞など多くの賞を受賞。サンフランシスコ近代美術館、フランス国立図書館、プリンストン大学アートミュージアム、東京都写真美術館ほかで作品が収蔵されている。

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