top 本と展示写真集紹介角田和夫『土佐深夜日記─うつせみ』

角田和夫『土佐深夜日記─うつせみ』

2023/02/04
髙橋義隆

角田和夫は1952年高知県に生まれる。幼い頃から対人関係に困難を覚えてきたという。20歳のとき、県外にあった職場でいじめに合い、精神的に深い傷を負って帰郷した角田に、当時大学の写真部に所属していた3歳上の兄がカメラを与えた。それが写真との出会いだった。
 
本書『土佐深夜日記─うつせみ』は高知県立美術館で開催された同名展示の図録になる。「満月の夜」「土佐深夜日記」「続土佐深夜日記」の3作を中心に編まれている。「満月の夜」「土佐深夜日記」は赤外線フィルムを用いて撮影しており、そのためか通常のモノクロフィルムとは違い、白と黒の質感が強調されて、その対比が作品世界と絶妙に呼応している。
 
「土佐深夜日記」は写真集としてまとめられているが、このシリーズはゲイとして生きる叔父を中心に構成されている。ゲイバーで働く叔父とその周辺の人々を撮影し、社会の周縁で生きる彼らに共鳴しつつも、ある地点から足踏みしているようなもどかしさがある。この距離感が角田と叔父との関係性を現しているように感じられた。
 
そして「続土佐深夜日記」は2020年から2022年にかけて撮影された新作となる。年代が示すようにコロナ禍に撮影された本作は、移動の制限を余儀なくされ、約30年ぶりに地元で撮影することになった。「土佐深夜日記」のときに使用したフィルムはすでになく、別のフィルムで撮影したという。たぶん試行錯誤を繰り返したであろう。また撮影する時代背景も大きく変化し、撮る前提も被写体も変わった。だが前作と並べたとき、違和感なく見える。このことに驚きを覚えた。角田はいまもなお瑞々しい感性でもって、夜に生きる人々を見つめている。
 
困難な状況下にあってもしぶとく生きる人々をとらえた本作から、生の希望が伝わってくる。

 

  • 角田和夫『土佐深夜日記─うつせみ』
  • B6変形/208ページ
    出品作品図版約150点、作家の言葉、学芸員による解説ほか収録
  • 価格:1,500円(税込)

 
【関連リンク】
https://moak.jp/event/exhibitions/artistfocus_03.html

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