小平雅尋の『杉浦荘A号室』(私家版)は、コロナ禍におけるミニマムなパーソナルドキュメントとして、強い説得力をもっている作品だ。
2020年、緊急事態宣言が下され、作者は部屋に籠もる生活を余儀なくされた。この住み慣れた部屋を改めて見渡すと、木造モルタル造の薄暗い部屋には、写真の道具と日常品が混在し、溢れてかえっていた。その一方で窓へ目を向けると、木々や鳥たちはいままで変わることなく、季節のサイクルにあわせて営みを続けている。
自身のポートレイトと自分の反映ともいえる部屋をモノクロで表し、外の光景はカラーにして、両者を対比させている。内省的で自己言及を続けるモノクロは私小説的というより、独り言のような趣きがある。また部屋に混在する写真用品、棚に収まった書籍、机の上に散乱した日用品を見ると、程度の差はあれ、その部屋の主の精神状態を表しているようで、過剰さと秩序が同居しているような様子から、人間は複雑さと単純さをあわせもっている生き物だと実感させる。
一方で外へ目を向けると、鳥や花などは四季の巡りあわせを繰り返し、単調な営みに精進している。シンプルでありながら、生をまっとうしようとする意志の強さが見えてくるようで、人間の生活様式と比べたとき、その差におかしみをおぼえる。
シンプルに生きられず、わざわざ複雑に転げていく。だから人間は愚かな生き物だと、卑下することは簡単だ。ややこしくとも生きていかなければならないのが人間であったりする。コロナ禍による強制的な自主隔離を経ることで生まれた本作は、ある意味人間を賛歌しているようにも見えてくる。
- 小平雅尋『杉浦荘A号室』
- ソフトカバー 本文68ページ 写真図版100点
- 価格:3,300円(税込)
【関連リンク】
https://symmetry.theshop.jp/items/70405398
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