山崎弘義の『路上の匂い』(蒼穹舎刊)は、1987年から1994年の東京都内を対象にカラーでスナップした作品となっている。この期間はちょうどバブル経済によって人も街も浮かれ始め、1989年の昭和天皇崩御を挟み、1991年頃をピークに日本の経済が落ち始めた頃である。
政治、経済、文化が集中する東京にとってこの時代は、頂点に登りつめた時期であった。だが街に目を向けると、誰もがこの世の春を謳歌しているわけではなかったようだ。戦後間もない頃の面影を残す街角や建物、白昼の路上で眠る浮浪者の姿がある一方で、経済状況の影響によって変化している光景もある。
都市開発の様相を見ると、周縁の者を置き去りにして邁進する見えない巨大な力が感じられ、言い難い不気味さがある。その傾向は30年経った現在でも変わらない。むしろ、より質の悪い粗悪な空気が淀み、雰囲気に支配されているように思える。
山崎の前作『Cross Road』は1990年から1996年にかけてパノラマで撮影されたストリートスナップだったが、今回はそれ以前に撮られたものになる。つまり山崎のキャリアにおいて初期に該当する。時間を遡るように写真集を作っているが、本作は古びた感じはなく、むしろ2023年現在の視点だからこそ、イメージの持つ潜在力が発揮されているように感じられる。
タイトルに「匂い」とある。写真行為とは目だけでなく、全身で受けとめ、反応したときにシャッターを押すであろう。その瞬間、五感のひとつである嗅覚が作用することもあるはずだ。そのときの匂い立つような感覚が本作に散りばめられている。
- 山崎弘義『路上の匂い』
- 2022年12月10日
400部 B5変型 上製本
カラー104ページ 作品72点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也- 価格:4,000円(税別)
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