藤原新也の『祈り』(クレヴィス刊)を捲る。最初に掲載されているのは写真ではなく、リトグラフ。デヴィッド・シルヴィアンが1999年に発表したアルバム『Dead Bees on a Cake』のジャケットで使用されている。見た瞬間、久しく聴いていなかった1曲目の「I Surrender」が脳裡で奏でられた。
藤原新也とシルヴィアンの関係は1991年、シルヴィアンがかつて在籍していたバンドJAPANのメンバーが再集結したアルバム『Rain Tree Crow』が最初である。アートワークに藤原の『アメリカン・ルーレット』からの作品が掲載され、ジャケットにはテキサスの荒野に斜めに光が走った印象的な1枚が起用されている。アルバムのタイトルに対して乾いたそのイメージは相反せず、楽曲と調和しているように感じられた。
藤原新也の写真から響きを感じるのは、そうした出会い方だったからだろうか。
一方で『東京漂流』に掲載された両親を金属バットで撲殺した少年の家を撮影した写真も、個人的には印象深い。事件後の家は住む人がなく、庭に植えられた木や草は伸び放題となり、家の外観も荒んでゆく過程を衒いなく写していた。手元に『東京漂流』はなく記憶だけで書いているが、つまり藤原の写真は強い傷跡を残す。それは見る者の記憶や経験に作用しているからかもしれない。
本作は世田谷美術館他で開催された展覧会の図録でもあり、同時にこれまでの活動を網羅した作品集となっている。50年以上第一線で活躍する藤原は、時代の空気に呼応し、その時々の象徴ともいえる人や風景を見つめてきた。『祈り』は時代のドキュメントであると同時に、藤原新也という人物の生き様の軌跡でもある。
- 藤原新也写真集『祈り』
- サイズ:A5変型
ページ数:304ページ- 価格:2,970円(税込)
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