飯沢耕太郎が写真評論家であることは多くの人に周知されているが、詩人でもあることはあまり知られていない。『完璧な小さな恋人』(ふげん社刊)は、飯沢にとって2冊目の詩集であり、写真やイメージから想起されたという意味で、批評とは異なる言葉のアプローチが展開されている。
ちなみに筆者は無学で教養がなく、感受性の乏しい愚者のため、詩という研ぎ澄まされた言葉でもって表現される文学の形式に関してまったく無知である。作品を評することはできないが、その代わりに評論家と詩の関係について触れてみたい。
評論を書く人が詩も書くというと、なんとなく相反しているように思えるが、例えば萩原朔太郎には『詩の原理』という詩を理論的に読解した著作があり、ヨーロッパに目を向ければ、ボードレールも文学や美術に関する評論を残している。
吉本隆明は評論家、思想家として多くの人は認知しているだろうが、元々は詩人であり、『荒地』という詩の同人誌に参加していた。その『荒地』の仲間であった鮎川信夫や北村太郎も詩作と同時に評論も書いてきた。思えば折口信夫は民俗学の分野で柳田国男とは異なるアプローチで論文を発表してきたが、釈迢空の名で優れた短歌を発表している。
このように評論家であり詩人であることは珍しくなく、詩人もまた批評の目をもっていた。そうした先人たちのことを踏まえると、この系譜に飯沢耕太郎が現在位置しており、なおかつ写真という領域から詩的言語を湧出させているという点で、唯一無二の存在といえよう。その才能の幅に驚嘆せざる得ない一冊である。
- 『完璧な小さな恋人』
- 著者:飯沢耕太郎
- ブックデザイン:田中せり
編集:熊谷新子
仕様:ハードカバー・オールカラー・116頁・B5版
印刷:渡辺美術印刷株式会社
定価:3,300円(本体3,000円+税)
発行:ふげん社(2022年11月22日)
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